2004.07.31

誤字等No.100

【ふいんき】(替誤科)

Google検索結果 2004/07/31 ふいんき:8,660件

今回は、「安達」さん他たくさんの方から頂いた投稿を元ネタにしています。

誤字等の館も、ついに「第100回」に到達しました。
そこで今回は、最も投稿の多かった「誤字中の誤字」、「ふいんき」に挑戦します。

Googleで「ふいんき」を検索した結果は、思ったほどの件数とはなりませんでした。
しかも、結果の上位に表示されるページは、そのほとんどが「ふいんき」が「間違い」であることを話題としたページです。
純粋に誤表記しただけのページよりも誤字であることを指摘するページの方が目立つとは、なんとも特異な言葉です。
「言葉」に関心を持つ人なら、気にせずにはいられない誤字なのかもしれません。
汚名挽回」と同じように、「他人の間違い」を指摘するには格好の材料となるのでしょう。

多くの人が関心を持った結果、「ふいんき」が生まれた原因や、「ふいんき」を使う人たちの考え方などを考察するサイトも大量に出現することになりました。
その中には「専門用語」を使った「専門家」らしい「解説」もあり、もはや「ふいんき」は「語り尽くされた」感すらあります。
今さら素人である筆者ごときが、そこに何かを加えられるものでもなさそうです。

とは言うものの、ここは曲がりなりにも「誤字」に関する話題を載せているサイト。
いつまでも、放置し続けるのも考えものです。
ということで、この言葉に対する筆者の考え方を、書き連ねてみることにしました。

本来の言葉は「その場をとりまく空気・気分」といった意味の「雰囲気」であり、その読みは「ふんいき」です。
漢字を素直に読めば、「ふん」「」「」となることに納得できるはずです。

これを「ふいんき」と発音している人が多いということのようですが、残念ながら筆者の周囲では見かけません。
雰囲気」という言葉が頻繁に会話に登場するわけでもありませんので、聞き逃しているだけかもしれませんが、いまひとつ実感できないというのが正直なところです。
私自身、この言葉は普通に「ふんいき」として覚えましたので、間違いが話題となるまで「ふいんき」という読みの存在にすら気づきませんでした。

ただ、実感はできませんが、理解はできます。
おそらく、「ふんいき」の「んい」の部分が発音しづらいと感じる人が、より発音しやすい形に言葉を変化させた結果でしょう。
あるいは、住んでいる地方によっては、「ふんいき」よりも「ふいんき」の方が自然なアクセントで発音できるのかもしれません。

確かに、「」の後に母音が続く言葉は、発音しづらいとも言えます。
英語なら、「n」と「i」をつなげて「」と発音することが一般的です。
日本語でも、「発音のしづらさ」は共通のものと考えることができます。

実際、「ふんいき」と読んでいても、その発音における「」は明確な発音ではなく、「曖昧」になっていることが多いものです。
原因」を「げんいん」ではなく「げーいん」と発音している人は、同様に「雰囲気」も「ふーいき」あるいは「ふいーき」と発音している可能性があります。
事実、そのような発音を漢字化したと思われる「風囲気」や「不意息」といった誤字等も実在します。
そういった曖昧な発音を耳にした人が、その言葉を「ふいんき」として聞き取ったとしても無理からぬところでしょう。

同じ理屈で考えると、「健一(ケンイチ)」や「信一(シンイチ)」という名前の人が「ケインチ」「シインチ」と呼ばれていてもおかしくはないのですが、こちらは話題になっている様子が見られません。
なぜ、これほど「ふいんき」だけが取り沙汰されるのか、考えてみれば不思議です。
やはり、「間違いである」ことを知っている人が多いために、その印象が必要以上に誇張されているのでしょうか。
本当に、何も知らずに間違えている人がどれだけいるかを慎重に調べれば、意外な結果になるかもしれません。

さて、耳からどのような発音を覚えようとも、「雰囲気」という漢字を意識しさえすれば、その発音が「ふんいき」となることは想像できるはずです。
にもかかわらず「ふいんき」が正しいと思い込んだままの人が存在する理由とは何でしょうか。

まずひとつ考えられるのは、「雰囲気」という漢字表記を知らない、あるいは失念しているということです。
このような人は、そのまま平仮名表記で満足するか、あるいは無理矢理な変換による表記を編み出します。
無理矢理な漢字表記にも、「不陰気」「奮因気」「訃音気」など、いくつかの種類が確認されています。
いずれも、かなり「無理のある」表記であり、そこで安住してしまう安直さは誉められたものではありません。
意図的に「ふざけた」言葉遣いをしているという解釈も可能となりますので、このような言葉を使っている人は自らの知識不足を早々に反省しないと、困ったことになりかねません。

さすがに、「不陰気」では「変」だと感じる人もいるのでしょう。
さらに工夫を凝らし、「雰因気」という、非常に「惜しい」表記にたどり着いた人もいます。
この場合の読みは「ふんいんき」でしょうか。「正解」まで、あと一歩です。
ただ、なまじ正解に「よく似た」表記になってしまっただけに、そこが「ゴール」だと勘違いしてしまうおそれもあります。
雰因気」で「正しい」と思い込んでしまったら、その修正は「不陰気」よりも困難なものになりそうです。
もっとも、単に似た字形の文字と間違えた「似字科の誤字等」である可能性も高いですが。

ふいんき」に疑問を持たないもうひとつの理由は、「話し言葉」と「漢字表記」を関連付けて考える思考法に馴染んでいないことと推察されます。
このような人は、「雰囲気」という言葉を知識として知っていながら、それを平然と「ふいんき」と読んでしまいます。
すると、いざ自分で文章を書こうとするとき、「ふいんき」が「雰囲気」に変換されないことに釈然としないものを覚えることになるでしょう。
読みと表記を関連付けることができれば、その時点で「自分の間違い」に気付くこともできるはずです。
それができずに「かな漢字変換プログラム」の方を疑ってしまうとしたら、正しい知識を得るのはそう簡単ではありません。
そのような人が実在するかどうかは、確信が持てませんが…

ところで、「ふいんき」の検索結果を眺めていると、「(←何故か変換できない)」と書いてあるページが多いことに気付きます。
どうやら、掲示板などで流行しているフレーズのようですね。
彼らは、明らかに「わざと」間違えて楽しんでいます。
ふいんき」以外の言葉に使うパターンもあり、一種の「お約束」として扱われているようです。
そのような書き込みに対して真面目に「誤字」であることを指摘したりしたら、嘲笑されること必至でしょう。
気になったとしても、特に何もせず放置するのが得策です。

そのフレーズの原典は、あるいは「補陀落通信」の「正しい日本語のために」にあるかもしれません。
大量の誤字や勘違いをちりばめた、なかなかに面白いページです。
過去に誤字等の館に登場した誤字等も、いくつか見受けられます。
この中にある間違いをすべて見つけることができれば、相当に日本語力が高いと言えるでしょう。
自信のある方は、一度トライしてみませんか?

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

不陰気:1,650件
雰因気:1,010件
雰陰気:281件
風陰気:262件
風囲気:96件
負陰気:66件
分陰気:46件
不囲気:38件
訃音気:32件
奮因気:23件
風因気:11件
不意息:7件
雰囲機:3件
浮印気:1件
ふいき:119件
ふういき:36件
ふーいき:12件
ふいいき:79件
ふいーき:17件
ふんいんき:28件

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