2004.12.13

【誤字等の談話室 10】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第10弾です。

[046]

「保修」(補修のこと)を取り上げてください。
某大手の電機メーカ関連で働いていますが、そのメーカの経理担当者は資料に「補
修」ではなく「保修」を使うよう指導しています。ちなみに「保修」は辞書にあり
ません。ネット検索すれば「原子力保修訓練センター」がヒットしました。
経理担当者が「保修」を使う理由は「補修」にすると固定資産税を多く取られるか
らだということだそうです。それが本当なら税務署もかなりいいかげんだと思いま
す。
どうなっているんでしょうか?

私が調べた範囲でも、「保修」は辞書に載っていませんでした。
少なくとも、一般的に使われている言葉ではないと言えるでしょう。
ただ、Google検索でヒットした用例を見ていると、「補修」とは違う意味の言葉に見えます。

「補修」とは、故障した部分を補い繕う「修理」の意味を持つ言葉です。
しかし原子力発電所のような施設では、故障が発生してから修理するのでは遅すぎます。
不具合が起きないように、普段からしっかりと点検を行っておくことが必須の要件です。
こういった「保守・保全」の側面を含み、保守点検から修理修繕までを包括する、「安全を保つための活動」全般を指し示す言葉として、「保修」は使われているのではないでしょうか。
用例から私が受けた印象は、そんなところでした。

仮に、「保修」が「補修」とは異なる意味の専門用語だとしたら。
文字にすれば違いは見えますが、発音してしまえば区別が付きません。
そんな紛らわしい言葉を使い続けるより、もっと別の表現を探した方が良さそうですね。

[047]

「誤字等の目安箱」には投稿いたしましたが、こちらでも調べましたので、ご参考
にしていただけたら幸いです。

ネタは「保修」(ほしゅう)です。


(社)火力原子力発電技術協会様にお聞きしてみました。

[聞いた内容]
----------->
発電所関係では、「保修」という言葉を使われていますが、どうゆう意味でしょう
か。
たとえば、このサイトの「JIS  B 0130火力発電用語(一般)”の用語案募集」
http://www.tenpes.or.jp/011-topics/H16_JIS_yougo_boshu.htmlでも「〜保
修など一般的な用語とします」として使われているようですし、サイトでは「原子
力保修訓練センター」http://www.kepco.co.jp/wakasa/kunren/kunren.htmとい
ったところもあるようです。
公文的な物にも使われているようでしたので、どんな意味があるか調べてみまし
た。
しかし、辞書を引いても「保修」という言葉は載っていませんし、パソコンで”ほ
しゅう”を変換しても、「保修」は出てきません。
きっと意味は「補修」のことだろうと思いますが、何か歴史的なものがあって字が
違っているのでしょうか。それとも、特別な意味があるのでしょうか。
お忙しいところ申し訳ありませんが、ぜひ教えていただくようお願いします。
<-----------
 
[その返事]・・・すぐ回答が来ました(名前は伏せますが、部長さんクラスの人か
らの返事でしたので、恐縮してしまいました)。
----------->
お尋ねの件ですが、明確な答えが出来ませんが、事実として、御指摘の「保修」
は、電力会社(10電力)で過去から使われてきた用語です。
推測ですが、いわゆる修繕等を中心した用語であれば「補修」が使われていると思
います。
しかし、「保修」には修繕計画や的確な実施時期の策定等も含めた補修業務を統括
した業務として使用してきたようです。
一方、JISでは、このような特殊と考えられる用語は排除する方向にありますので、
現在改定中の「JIS0130」では「補修」といたしました。
正確なお答えになっていませんが御容赦ください。
<-----------
 
以上、なかなか奥が深い(歴史がある)ような気がします。

投稿者ご本人からの続報です。
直接、問い合わせをされたわけですね。

どうもいまひとつはっきりしない回答ではありますが、「補修」とは別の専門用語として「保修」が使われてきたこと自体は確かなようです。
であれば、それを単純に「補修」に直すのはいかがなものかと思うのですが…
それとも、本当に「補修」で置き換えが可能な意味で「保修」を使っていたのでしょうか?
私としては納得したつもりになっていた解釈が、この回答でまた分からなくなってしまいました。

[048]

誤字等の客間が重すぎてブロードバンド環境で5分以上かけても全て表示されなかっ
たため既出かもしれませんが、「松阪牛」を「まつざかぎゅう」と発音する人の多
さにびっくりします。「松阪市」も多くの人が「まつざかし」と読みます。もちろ
ん正解は「まつさかぎゅう」や「まつさかし」。「大阪」を「おおざか」とは言わ
ず「おおさか」と言うのと同じです。先日はNHKのニュースキャスターまで「まつざ
かぎゅう」と言ってました。名古屋のデパート「松坂屋」は「まつざかや」で正解
ですけど、松阪は濁らず「まつさか」が正

確かに「客間」は非常に長いですが、画像を使ったサイトに比べればはるかに軽いはずです。
表示されないのは、通信環境のどこかに問題があるのかもしれませんね。
あるいは、誤字等の館を置いているサーバーの不具合でしょうか。
客間をもう少し細かく分割することも、考えてみます。

さて、本題の「松阪牛」と「松阪市」。
すみません、私も「まつざか」だと思っていました。
プロ野球の「松坂投手」の影響が大きいです。
この漢字表記も、「坂」と「阪」で紛らわしいことになっていますね。
「松坂牛」や「松坂市」という表記もたくさん見つけることができます。

松阪市オフィシャルサイトには、確かに「MATSUSAKA CITY」と書かれた画像がありました。
「まつさか」であることに間違いはないようです。
しかし、松阪市のサイトにも、そして「松阪牛」のサイトにも、「ふりがな」は見当たりません。
「松阪」は「まつさか」と読む、という明確な記載を、見つけることはできませんでした。

本当に、どこにもふりがなが振っていないのだとしたら。
サイトの作成側にとって「松阪」を「まつさか」と読むことはあまりにも「当然」すぎて、わざわざふりがなを振る必要性など思いつきもしないのでしょうか。
地元民以外にはその「常識」が通用しないかもしれない、という「想像力」をほんの少しでも働かせることができれば、結果は違ったものになっているはずです。
それとも、「読みなんてどうでもいい」と思っているのでしょうか。
「まつさか」と読もうが「まつざか」と読もうが「どちらでも構わない」、という宣言なのでしょうか。
松阪市の地元民でもなく、松阪牛にも「きっぱり」縁がない貧乏人の私には、彼らのメッセージは何一つ伝わってきませんでした。

[049]

Christmasの時期になりつつありますが、この頃に見かける単語が「X'mas」と
「Xmas」。外国の人に聞いたところクリスマスは「Xmas」が正しいとのことでし
た。「'」は「n」や「g」の音もしくは何かを省略した記号で、また「X」はギリシ
ャ語で「クリス」と読むらしく省略した記号としても「'」の使い方としては間違って
いるそうです。しかしチラシやポスターを見ると「X'mas」は結構あります。日本人
の私たちには「X'mas」でもクリスマスと認識できますし、おおく目にします。
「X'mas」を訂正してもらったほうがいいのでしょうか、それとも新しい日本語とし
て「X'mas」を受け入れるべきでしょうか。私は(virusはウィルス、vitamineはビ
タミンと読みますが)英語かぶれ気味なので「Xmas」に修正したほうがいいと思い
ます。外国の人が見たら、頭が悪いor外国語を理解してない国民と思われかねない
ので。

「間違い」と断定できるかどうかは分かりませんが、英語圏で「X'mas」という表記を見かけることはほとんどないそうですね。
「X-mas」と書かれることならありますが、「省略符号」としてのアポストロフィは必要ありません。
英単語として、文字を省略しているわけではないですからね。
残念ながら、Googleは「'」を「記号」として特別扱いしてしまうので、実際に「X'mas」の表記がどれだけあるかは分かりませんでした。

日本語としての「クリスマス」は、それ自体が「ひとつの単語」であり、要素に分解できるものではありません。
しかし「英語」として見れば、「Christ (キリスト)」の「mas (ミサ)」であるという構成が見えます。
そして、この「Christ」をギリシャ語で表記した「ΧΡΙΣΤΟΣ」の頭文字を取り、「Χ」だけで「Christ」の意味を持たせた言葉が「Χmas」です。

この成り立ちを知っていれば、省略符号を付加する表記がいかに奇妙なものか、分かるというものです。
しかし、それを知らない人から見れば、「X」ひと文字だけで「クリス」と読むことに納得できず、何かを付け足したくなるのでしょう。
といっても、それだけではこれほど「X'mas」が広く使われる理由にはなりません。

多くの日本人にとって、クリスマスは宗教的な儀式ではなく、ただの「イベント」です。
そしてそのイベントをプロモーションしているのは、商魂たくましい「商人」たちです。
そんな商人たちにとって重要なのは、言葉の成り立ちや本当の意味などではなく、「ブランド」としての表記、デザイン、いわゆる「ロゴマーク」としての存在です。
その視点で見たときに、「Xmas」よりも「X'mas」の方が見栄えがする、そんな理由が背景にあるのではないでしょうか。

[050]

「という」と「と言う」の使い分けが気になります。「と言うこと」でgoogleにて
検索をかけますと106万件ヒットします。その一番最初に出てくる例は漢字でよいと
思いますが、2番目以降はひらがなで表すのが正しいのではないかと思うのです。
そのほか、この語の後にいろいろな名詞を組み合わせた場合も結構漢字を使ってい
ることが多いようです。・・例 こう言う時、こう言う場合

「この用法のときに限り、普通は仮名書きする」という言葉が、日本語にはいくつかあります。
今私が使った「という」もそうですし、状況や条件などをあらわすときの「とき」もそうですね。
(まさに、この「とき」の使い方です。これを「時」にしたら変ですね)

使い分けには明確なルールがあるのですが、なかなかそれを意識するのは難しいでしょう。
大抵は、誰が教えてくれるわけでもなく、自ら気付き、習得する必要があるからです。
他人の文章を読み、そのルールに気付くかどうかは、純粋に個人の資質に依存します。
さらには、気付くかどうかだけではなく、その違いを「意識」できるかどうかも人によります。

「という」が「と言う」になっていても平気な人は、言葉に対する関心が薄く、表記を気にしない人である可能性が高いです。
一度や二度のミスならともかく、日常的にそのような表記を繰り返している人は、特にその可能性が上がります。
そのような人であれば、たとえ間違いを指摘したところで改善の効果は望めません。
自分が「間違っている」という認識を持つこと自体が、極めて困難になるためです。
気になったとしても、放置しておくほかはないのかもしれません。

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