2005.07.30

【誤字等の談話室 26】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第26弾です。

[073]

「採用を見送る」を「採用をみおくらさせていただく」としたいとき、そのま
ま変換すると「見遅らさせて」になってしまい、「見送らさせて」に変換でき
ません。それは、「見送らさせて」がおかしな使い方なのでしょうか。

そうですね。おかしな使い方だと思います。

「採用をみおくらせていただく」だったらどうでしょう。
ちゃんと「見送らせて」と変換されるのではないですか?

そう、実は「さ」が余計なのです。
専門用語で、これを「さ入れ言葉」と言います。
「ら抜き言葉」や「れ足す言葉」などと並んで、「言葉の乱れ」として扱われる誤用です。
一般的には、「敬語に慣れていない」人たちが使いがちな言葉と言われています。
でも実際には、「敬語」に限らず様々な場面で見られますね。
「ら抜き」ほど有名ではありませんが、目にする機会はかなり多いです。

「させる」は「使役の助動詞」と呼ばれ、誰かに何かを行わせる表現です。
これに謙譲語の「いただく」をつなげて「させていただく」とすることで、自分自身の行為をへりくだる言葉となります。
この「使役の助動詞」には、「させる」の他に「せる」という形もあります。
「せる」を使う動詞は、「読ませる」「聞かせる」「使わせる」など、たくさんあります。
当然、これらを謙譲表現にするときは、「読ませていただく」「聞かせていただく」「使わせていただく」とすべきです。

この「せる」と「させる」の使い分けに馴染めず、「させる」一本槍ですべてを解決しようとした結果が「さ入れ言葉」です。
「読まさせていただく」「聞かさせていただく」「使わさせていただく」、すべて誤用です。
いずれも、そのままでは変換できないはずです。
同様に、「送る」の使役表現は「送らせる」ですから、謙譲表現は当然「送らせていただく」です。

ちなみに、「遅」に変換されるのは、「遅らす」という言葉の活用形と判定されているものと考えられます。

前述のように、「さ入れ言葉」を使う人は「敬語に不慣れ」であるという印象を聞き手に与えてしまいます。
たとえそれが「できるだけ丁寧な言葉遣いをしたい」という気持ちから来ているものだとしても、その思いは空回りするばかり。
こんなささいなことで「相手に与える印象」が変わってしまうなんて、損だと思いませんか?

学生なら、それでもまだ構いません。
しかし「社会人」として一人前になりたいのなら、できるだけ早く「さ入れ」状態からは卒業した方が良いです。

[074]

弊社と幣社、へりくだっての表現でしょうが、どちらもokなのでしょうか?

それは違います。
自社をへりくだる表現は「弊社」であって、「幣社」ではありません。

「幣社」では、へりくだるどころか、ものすごく「尊大」な言葉になってしまいます。
これは、似字科の誤字等ですね。
本編で取り上げてみても面白そうです。

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