2005.12.03

【誤字等の談話室 39】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第39弾です。

[085]

「申し訳ありません」という表記なのですが、この表記は日本語として誤っている、
と最近知りました。
正しくは「申し訳なく存じます」「申し訳ないことでございます」なのだそうです。

「申し訳ない」はひとつの単語(形容詞)なので「申し訳」と「ない」のように切り
離して使うことはできないのだそうです。
他の例としては「危ない」等がありこれを「あぶ」と「ない」に分割できないように
「申し訳ない」も「申し訳」と「ない」には分割できないということですね。
これを『非独立形不可分の法則』と言うらしいです。

ただし、間違った日本語でも、長年使われて来た言葉は慣習を重視するという点で辞
書に掲載されることもあるのだそうです。

「タモリのジャポニカロゴス」ですね。
この話題は以前にも書きましたが、私は「反対」します。

確かに、「あぶない」は「あぶ」+「ない」に分割できません。
これは、全体で「ひとつの形容詞」であることが明白です。

一方の「申し訳ない」は、その中に、明らかに「申し訳」という「単語」を見ることができます。
「申し訳ない」は分割できない?
嘘です。分割できます。
でなければ、「申し訳がない」という表現が説明できません。

私は専門家ではありませんので、「非独立形不可分の法則」なるものが本当にあるのかどうかはわかりません。
しかし、ネットで検索した限りでは、この言葉が出てくるのは「ジャポニカロゴス」の話題だけです。

どうやら、「町田健」という名の人物が背後にいるようですね。
かなり独自の理論を展開し、現在の「常識」を覆すことを趣味とされている方です。
色々な言語について造詣が深いようですが、あくまで「ひとりの専門家」です。

「文法」なるものは、現実の言語をできるだけ説明するために、学者が定義したものに過ぎません。
それが言語自体を決めているわけではありませんので、「絶対の正解」などあり得ないのです。

無論、それでも「基準」はあります。
それさえ否定してしまったら、「何でもあり」状態ですからね。
このサイトの存在意義も、なくなってしまいます。
その意味で、「基準」たり得る法則なら、一般的には「正解」を決める根拠にできます。
しかし、実際の「現象を説明できない」法則なら、それは間違いです。

自説が真実だと信じるあまり、言語の本質を見失っている学者がいたとしたら、迷惑な話です。
「文法」をめぐって、専門家同士が議論するのは一向に構いません。
でも、そんなことに一般人を巻き込まないでください。

「ジャポニカロゴス」の件を検索してみてわかったことは、もうひとつあります。
それは、この件について感想を書いている人のほとんどが、「まったく疑いを持っていない」ことです。
「申し訳ありません」が間違いであることを知って、ショックを受けた。
そんな記述ばかりです。

「テレビで嘘が放映される」可能性など、微塵も考慮されていません。
偉い学者先生が言っているんだから、間違っているはずがないということでしょうか。

マスコミが嘘をつかないなんて、それこそでたらめです。
誤報もあれば、意図的な歪曲もあります。
低レベルなオカルトから、詐欺師の片棒を担いでいる疑似科学まで、テレビ番組の質の低さは相当なものです。

学者の言うことが常に真実などということもありません。
もしそうなら、学会における論争など発生し得ないことになってしまいます。

それらを疑いもせずに鵜呑みにする人々が、現代日本人の姿なのでしょうか。

疑う能力を持たない人間は、詐欺の「被害者」になるだけでなく、「加害者」にもなります。
「MLM」などの悪徳商法に騙されて、知人を巻き込む人たちなどがその実例です。

学校では教えてくれない「疑う」力。
それを身に付けずに生きていけるほど、現代社会は甘くない、と私は思うのですが…
実際には、善人ばかりに囲まれた「幸せな人」の方が多いのでしょうかね。

前 目次 次

※ 2005/12/11
漢字表記の間違いについてのご指摘があったため、修正しました。