2006.11.26

【誤字等の談話室 51】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第51弾です。

[116]

稲妻のふりがなが「いなずま」になるとジャポニカロゴスで見ました。
漢字の読みで考えると「妻」なのですから「いなづま」になると思うのですが、
辞書をひくと「いなずま」となっています。理由が知りたいです。
宜しくご教示願います。

また「ジャポニカロゴス」ですか。
もしかして、「いなずま」だけを正解として、「いなづま」を間違いと断じたのでしょうか。
その理由を、ちゃんと説明していないのでしょうか。
だとしたら、なんと底の浅い番組なのでしょう。

確かに、現代仮名遣いにおける表記は、「いなずま」です。
辞書が見出しとして採用するのも、こちらです。
これを知っておくこと自体は、役に立つはずです。

しかし、構成する漢字を見ればわかるように、本来の読みは「いなづま」です。
稲が実る時期に稲妻が多発することから、稲は稲妻によって実りを得ると考えられていたことが由来です。

過去はそうでしたが、現代ではもはや、このような考え方は廃れています。
そのため、通常は稲妻を「稲」+「妻」と分けて考えることはありません。
二語に分解しにくい言葉であることから、連濁を適用せず、「いなずま」という一語として扱うわけです。

同時に、本来の表記である「いなづま」も認められています。
「どちらか片方」ではなく、「どちらも正解」なのです。

同様の扱いをする言葉は、他にもあります。
「頷く」「世界中」「融通」など。
これらは「じ」「ず」が「本則」ですが、「ぢ」「づ」と書いても構いません。

現代仮名遣いは「例外」も多く、簡単に「これが正解」と断定できるものばかりではありません。
誤字等の館で取り上げている「少しづつ」も、同じです。
正しい表記は「ずつ」ですが、「づつ」も容認されています。

今の時代、テレビ番組の教える知識を「信用」するのは危険です。
むしろ、「疑問」を持つきっかけとして利用するのが望ましい姿なのではないでしょうか。

[117]

前から思っていましたが、
【コンプライアンスを遵守する】・・・という表現をする企業がありますが、
これってよく考えればおかしいですよね^^;。
法令遵守を遵守する・・・になってしまいますから。

【コンプライアンスを徹底させる】、等が正しいのかと。
いかがでしょうか?

そうですね、確かに変な表現です。
きっと、よくわからずに聞きかじりの外来語を使ってみたかっただけなのでしょう。

「コンプライアンス (compliance)」の意味は、命令や要求などに従うことです。
「法令」だけに限った話ではありません。
すなわち、「コンプライアンスを遵守する」を直訳すれば、「命令に従うことを遵守する」です。
……ひたすら命令を待ち続ける、ロボットのような存在ですね。

「外来語」としての「コンプライアンス」は「法令遵守」の意味とされますが、それも疑問です。
守るべきものは「法令」だけではありません。
「法令」さえ守っていれば何をしても良い、という考え方の企業があったとしたら。
そんな企業に「コンプライアンス」があるとは言えないでしょう。

「法令」を遵守するなんて、あたりまえです。
法の条文の背景にある「精神」、そして一般的な「社会規範」。
それらを含めて、きちんと守る姿勢、体制、信条が「コンプライアンス」なのではないでしょうか。

実際には、この言葉を単なる「宣伝文句」として利用している企業がたくさんあります。
そのような企業に真の「コンプライアンス」があるかどうか、疑わしいものですね。

[118]

「耳触り」という言葉の本来の意味は「聞いた時の感じ・印象」であるんですが
「耳触り」という言葉だけで「邪魔な」等の意味に捉えられている気がします。
私が間違っていたら大変申し訳ないのですが、よかったらこのネタも使ってください。

「耳ざわり」には二種類の意味と表記があります。
それが、この疑問の正体です。

これ、勘違いしている人がたくさんいますね。
「耳ざわりが良い」といった表現を「間違い」だと断じている人、多いです。
きっと、「二種類の表記」があることを知らないのでしょう。

「耳触り」と書いたときの意味は、「聞いた時の感じ・印象」です。
良い、悪いのどちらでも使えます。

もうひとつ、「耳障り」という表記があります。
これは「聞いて不快に感じること」ですので、「悪い」印象のみに使います。

後者の意味しか知らない人には、「耳ざわりが良い」は「ありえない」わけですね。
無論「耳障りが良い」と書いたら間違いですが、「耳ざわり」ならどちらにも解釈可能です。

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