2007.09.30

【誤字等の談話室 57】

誤字等の館 (ごじらのやかた) に寄せられる読者様のコメントに対して館主が答える「誤字等の談話室」、その第57弾です。

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「はり紙」は「貼り紙」と「張り紙」の二種類に変換できますが、
どちらも壁や電柱に貼り付ける、ポスターやチラシを意味するのでしょうか?
違うとしたら、「張り紙」って何ですか?

「はり紙」の漢字表記は、「貼り紙」「張り紙」のどちらも正解です。
ただし、「貼」の方は常用漢字表に含まれていないので、「張り紙」と書く方が一般的です。

「張る」は、非常に多くの意味を持っている言葉です。
その中には、「糊などで紙をくっつける」ことを示す「貼る」の意味も含まれています。

意味の「広さ」に違いがありますので、「貼り付ける」ことを強調したいなら「貼る」を使った方がはっきりします。
ですが、「はり紙」という使い方であれば意味を誤解することもないでしょうから、こだわる必要はありません。
どちらでも、好きな方を使うと良いと思います。
ひとつの文章中で混在していたら、少々「節操がない」ように見えてしまいますけどね。

[131]

私は機械工学科出身で、3年前までSEをやっていたのですが、
学校でも職場でも疑問に思ったことがあります。

末尾が長音で終わる外来語「エネルギー」や「コンピューター」「サーバー」
などを、工業分野ではなぜか「エネルギ」「コンピュータ」」「サーバ」
と長音を省略して表記します。

でも学校の先生も会社の同僚や上司も、会話の時にはちゃんと最後に
長音がついていました。
これは何かの決まりごとがあったんでしょうか?

でも「パワー」を「パワ」とは誰一人表記していませんでした。

外来語の長音表記については、いろいろと興味深い現象があります。
特に、末尾の長音を記載するか省略するか、という点が議論になることが多いですね。

外来語として「どちらが正しいか」の観点なら、「省略しない」方が正当です。
「エネルギ」ではなく、「エネルギー」と表記する方が良い、ということです。
ただし、既に「慣例」となっているものについては、省略しても「間違い」ではありません。
「スリッパ」など、省略する方が普通である言葉もあります。

一般的に、技術系の専門文書では末尾の長音が省略されることが多いと言われています。
「コンピュータ」などは、その典型ですね。

技術の分野では、英語の論文を読むことができないと、実用的な知識を得ることは難しくなります。
日常的に英語に接していれば、外来語を使う際にも、その元となった「英単語」を自然と意識するようになります。
そして、英語本来の発音を意識すると、末尾の長音は「不要なもの」と感じられます。
末尾の長音を省略した表記で文章を書くのは、こうした言語感覚を身に付けた人なのかもしれません。

もっとも、読むときには結局日本語式に発音して語尾を延ばしている人も多いです。
このような人は、単なる「慣習」として語尾の長音を省略しているだけなのでしょうね。

「パワ」で思い出しましたが、私のまわりで実際に起きたエピソードをひとつご紹介します。
私自身も「技術系」の人間ですので、普段から「語尾の長音を省略した」言葉遣いを多用しています。
そんな私でも、ある「新人君」の書いたレポートには、少々面食らってしまいました。
「エラ」や「カラ」といった、意味不明の言葉が並んでいたのです。
その中に「コピ」という言葉をみつけたとき、真相が判明しました。
それらの正体は、「エラー (error)」「カラー (color)」、そして「コピー (copy)」でした。
どうやらその新人君、外来語の末尾にある長音はすべて省略するのが「業界のルール」だと思い込んでいたようです。
早く業界の慣習に馴染みたいと思った新人君の、一生懸命な気持ちが生み出した表記でした。

結局、その新人君には、言葉の使い方をいろいろと教え込むことになりました。
別に無理して省略する必要はないこと、特に二文字程度の言葉で省略されると通用しなくなること、などなど。
そのまま放っておいたら、「カ (car)」だの「キ (key)」だのとエスカレートしていたかもしれません。

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