2004.04.15

誤字等No.059

【負けるとも劣らない】(取違科)

Google検索結果 2004/04/15 負けるとも劣らない:866件

休日、とあるTV番組を何気なく視ていたところ、「まけるともおとらない」という言葉が聞こえてきました。
負けるとも劣らない」…? それを言うなら、「勝るとも劣らない」ではないか?
気になった私は、早速辞書を調べてみました。
勝るとも劣らない」は載っていますが、「負けるとも劣らない」なる言い回しは載っていません。

続けてGoogleにて検索を実行してみると、「負けるとも劣らない」を使ったサイトが次々と登場。
どう見ても、これが「実在する言葉」だと思っている書き方です。
なるほど、件のTV出演者だけが使っている言葉ではないようですね。

まさる」と「まける」では一文字しか違いはありませんが、その意味は「正反対」になります。
部分的に「正反対」の言葉を使っているにもかかわらず、全体としての意味が変化していないとするなら、なかなか興味深い言葉です。

こういった、「別の言葉と取り違える」現象も、誤字等を生み出す原因のひとつとして考えられるのではないでしょうか。
そこで誤字等の館では、「取り違え」に由来すると思われる誤字等を、「取違科(とりいか)」として新種登録することにしました。

さて、本来の形(と思われる)「勝るとも劣らない」は、「他と比べて勝っていることはあっても、劣っていることはない」ということから、「互角以上」の程度や能力があることを示しています。
その解釈を適用すると、「負けるとも劣らない」は、「他と比べて負けていることはあっても、劣っていることはない」ですから、「試合に負けて勝負に勝つ」という意味にでもなるのでしょうか。
しかし検索結果を見る限りでは、そんな意味深な使い方をされているようには見えません。
単に、「匹敵する」「拮抗する」という言葉で置き換えられる程度のものが多いようです。

ただ、よく読んでみると、「本物には及ばないものの、それに近い実力がある」というニュアンスを含ませた文章が目立つことに気付きました。
同じくらいの評価ではあるが肩を並べるほどには至らない、ということであれば、「互角以上」とは言えません。
そういった意識が働いた結果、「勝る」ではなく「負ける」を選んでしまうのでしょうか。
「確かに負けてはいるが、劣っているというほどの差があるわけではない」という微妙な主張なのかもしれません。
そうすると、厳密に言えば「互角未満」となるわけですから、「勝るとも劣らない」を使うことは「間違い」になりますね。
意外と、その場面には「負けるとも劣らない」という表現が適切だったりするのかもしれません。
そこまで分かって使っているのであれば、誤字扱いしたことは訂正します。

さて、「勝るとも劣らない」とよく似た言葉には、「負けず劣らず」があります。
こちらは「互角」「同程度」という意味になりますので、全く同じ言葉というわけではありません。
それでも、言葉の構成自体が両者ともに似通っていますから、違いを明確に意識するような人はあまりいないでしょう。
このふたつの言葉がごっちゃになることで「負けるとも劣らない」が生まれてくるという仮説は、十分に説得力があるものと考えます。
組み合わせ次第で、「負けずとも劣らない」などの亜種も誕生しています。

亜種の中で見つけた「勝らず劣らず」は、「ぴったり同じ」という雰囲気が感じられる、面白い言葉です。
もし仮に、こういった言葉を使い分けることで「微妙な違い」を表現しているのだとしたら。
日本人の言語センスも、捨てたものではないのかもしれません。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名します。

[亜種]

負けるともおとらない:4件
まけるともおとらない:1件
負けずとも劣らない:702件
勝らずとも劣らない:102件
勝らずとも劣らず:51件
勝らず劣らず:29件

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