2004.04.17

誤字等No.060

【あわられる】(替誤科)

Google検索結果 2004/04/17 あわられる:455件

あらわれる」という言葉は、いくつもの落とし穴を抱えた「トラブルメイカー」かもしれません。
漢字表記は「現れる」「表れる」「顕れる」の三種類があり、それぞれに微妙なニュアンスの違いがあります。
特に前者二つは使い分けが難しく、同じような言葉として扱われることが多いことでしょう。

送り仮名の表記も、「現れる」「現われる」の二通りがあります。
正統な形は前者ですが、後者も「間違い」と断言できないほどに広まっています。

こういった「ややこしい」状況を避けようとする意識が働くのでしょうか。
あらわれる」という平仮名表記が、かなり好んで使われます。
これなら、漢字の使い分けに悩むことも、送り仮名の表記に迷うこともありません。

そして、それが「あわられる」という誤字を生み出す原因となります。
トラブルを避けるためにとった行動が、新たなトラブルの火種となるとは、皮肉なものです。

平仮名表記の「あらわれる」と「あわられる」が並んでいたとしても、ぱっと見には違いが分からないかもしれません。
なんとも紛らわしい誤字ですが、この変化は「まぎわらしい」と似ています。
紛らわしいのも頷けます。

この変化が生じる原因のひとつとして、「られる」という助動詞の存在があります。
「受身」や「可能」などいくつかの用法がある「られる」は、日本人にとって十分に馴染みのある言葉です。
近年、意味を「可能」に限定するために「ら抜き」言葉が多く使われるようになっていることも、「られる」の幅広い意義を証明する現象です。
そして馴染みがあるからこそ、「あらわれる」という平仮名表記から無意識のうちに「られる」を読み取り、「あわられる」にしてしまったという可能性が考えられるのです。

現に、「あわられる」を漢字表記に戻したとみられる「現られる」、それを平仮名表記した「あらわられる」などの亜種も次々と登場します。
このあたりは、「られる」という文字の並びを強く意識した結果と見ることができます。

あらわれる」と近縁の言葉である「あらわす(表す)」にも、同様の誤字「あわらす」が存在します。
そのような表記バリエーションを色々とまとめていたら、自分でもわけがわからなくなってきてしまいました。
後述する「亜種」を見ていただければ、それを実感することができるでしょう。

確かに微妙な違いのある漢字を使い分けることは難しいかもしれませんが、だからといって安易に平仮名表記するのも考えものです。
平仮名を多用した文章は、「まぎらわしい」ものになりがちですから。

[実例]

日本人とは、かくも「入れ替え」に弱いのでしょうか。
このような「入れ替え」が原因と思われる誤字等の品種を、「替誤科(かえごか)」と命名しました。

[亜種]

現られる:3件
あらわられる:24件
あられわる:3件
あらわらる:8件
あわらる:41件
あわらす:211件
あらわらす:3件
あわらされる:10件
あわられない:12件
あわらさない:7件
あわらされない:2件

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