2004.10.07

誤字等No.114

【例外に漏れず】(取違科)

Google検索結果 2004/10/07 例外に漏れず:783件

例外に漏れず」とは、一体どんな意味の言葉でしょうか。

  1. 」から外に漏れていない、すなわち「例の中」なのか。
  2. 例外」の範囲から漏れていない、すなわち「例の外」なのか。

正反対の両者ですが、逐字的に分析すれば、どちらにでも解釈できそうです。

検索結果として表示されるページでの用法は、ほぼ間違いなく「例の中」の方ですね。
「世間一般と変わりなく」「他と同じように」といった意味合いで使われているものと思われます。

多分、本当に言いたかったのは、「例に漏れず」なのではないかと推察します。
自分の話題としている事例も、「」の中に含まれていますよ、特殊な事象じゃないですよ、ということでしょう。

その際、ほとんど同じような意味を持つ「例外ではなく」「御多分に漏れず」あたりの言葉が混ざってしまったものと考えられます。
出来上がった「例外に漏れず」に対して上記 1. の解釈を思い浮かべ、「これで合っている」と思い込む人もいるかもしれません。

そんな人でも、「例に漏れず」と「例外に漏れず」を並べて見れば、これが「取り違え」であることが理解できるはずです。
もし上記 2. の解釈をされてしまったら、何が言いたいのか分からなくなってしまいます。
ということで、誤字等の館では「例外に漏れず」を、「」と「例外」を取り違えた取違科の誤字等として分類します。

本来の形である「例に漏れず」という表現は、結構頻繁に使われています。
仮名書きの「例にもれず」を含めて、どの程度登場しているのか実際に調べてみましょう。

例に漏れず:22,900件
例にもれず:10,800件

かなりの数ですね。
通常、このような言葉が「会話」の中に登場することはあまり考えられません。
どちらかと言えば、「書き言葉」に属する表現でしょう。
それにしては、この使用頻度は驚きです。
しかも、割合「軽い口調」の文章で使われているケースも目立ちます。

確かに、検索結果として表示されるのは「文章」です。「会話」ではありません。
「文章」に「書き言葉」が使われているのは「当たり前」のことであり、別段不思議がることではないです。
それでも、ここに「引っかかるもの」を感じるのは何故なのでしょうか。

現実問題として、現代の日本で「書き言葉」を正確に使いこなせる人は、そう多くありません。
そもそも、文章を書くことを生業としていない素人が、自分の書いた文を気軽に公開するようになったのは、つい最近のこと。
今では珍しくもなくなりましたが、数年前、少なくとも十年以上前には、考えられないことでした。
ここでこんなことを書いている筆者自身も、例外ではありません。

コンピュータやワープロといった機器が普及する前には、「文章を書く」ということ自体、大変な労力を必要とするものでした。
そのような時代、「他人に読ませるための文章を書く」ことを日常的に行うことなど、なかなかできるものではありませんでした。
「もの書き」以外の一般の人たちは、「文章を書く」という行動に関して、絶対的に「経験値」が不足していたのです。

「文章を書く」ために必要な下地を身に付けていない、いわゆる「普通の」人たち。
そんな彼らが、突如として文章を量産し始めたのが、今の時代です。

WEBやメールが一般的に使われるようになり、ブログが流行し、「文章を書き、他人に見せる」という行為は、特別なものではなくなりました。
そして多くの人が、「書き言葉」を使いこなすスキルを持っていないにもかかわらず、それなりの「見栄え」がする文章を書こうとします。
その際、なんとなく「難しい言葉」を使ってみたくなるのも無理はありません。

そこには、普段の会話では使わないような言葉を使ってみたい、という「背伸び」が見えます。
当然、知らず知らずのうちに「間違った言葉遣い」がいくつも紛れ込むことでしょう。

例外に漏れず」という誤字等の背景に、そんな事情があると言ったら、考えすぎでしょうか。
私には、この例のような「書き言葉」を取り違えた誤字等は、今後どんどん増えていくような予感がします。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

例外に洩れず:106件
例外にもれず:683件
例外に漏れない:17件
例外に洩れない:4件
例外にもれない:31件
例外に漏れることなく:40件
例外に洩れることなく:3件
例外にもれることなく:25件
例外にも漏れず:2件
例外にも洩れず:1件
例外にももれず:4件
例外から漏れず:2件

前 目次 次