2005.01.06

誤字等No.126

【できかねません】(取違科)

Google検索結果 2005/01/06 できかねません:1,420件

今回は、「佐藤」さんからの投稿を元ネタにしています。

できかねる」と「できかねない」の違いは、何でしょう。
このふたつが、単なる否定形ではない、「違う意味の言葉」だということ、ご存知でしたか?
今回は、その違いに気付けず、取り違えるとこうなってしまいます、というお話です。

WEB上でも時折みかける、「質問にはお答えできかねません」という断り書き。
はたして、この文章は何を主張しようとしているのでしょうか。

かねる (兼ねる)」の否定形「かねない」を動詞の連用形に続けて使った場合、その意味は「推量」になります。
「もしかしたら、そうするかもしれない」「そうする可能性がある」「しないとはいえない」といった意味合いです。
ただし、その結果は主に「悪い方」に限定されます。
「好ましくない結果」について、「そうなってしまうかもしれない」という「危惧」を表現する言い方です。
例文をあげるとすれば、こんなところでしょうか。

「そんな危険な運転では、事故を起こしかねない。」
「不摂生な食事ばかりでは、病気になりかねない。」

では、その前提で、上述の「お答えできかねません」を解釈してみましょう。

「もしかしたら、質問にお答えできてしまうかもしれません。」
「質問にお答えできてしまう可能性があります。ご注意ください。」
「質問にお答えできるような事態になってしまうおそれがあります。」

…なんとも、意味不明な断り書きですね。
質問に答えるということは、そんなに忌避すべきことなのでしょうか。

と、ひねくれた見方はそれくらいにして。
無論、わざわざそんな奇妙な主張をしたがる人など、滅多にいるはずもありません。
「質問されても、答えられない」ということを、丁寧に伝えたかっただけなのでしょう。
であれば、否定形になどせず、「お答えできかねます」としておけば良かったのです。

動詞の連用形に「かねる」を続けると、「しようとしてもできない」「することがむずかしい」という意味にすることができます。
「お答えできかねます」は、要するに「回答は期待しないで下さい」という逃げ口上ですね。

こういった間違いをする人たちは、「かねる」自体に否定的な意味合いが含まれていることが理解しきれていない可能性があります。
答えられない」という「否定の状況」を表現するために、文章自体も「否定形」の様相を呈していないとおさまりがつかないのかもしれません。
そして深く考えずに「できかねません」という「否定形」の文章を作り、満足してしまったのでしょうか。
単に「できない」と言うよりも「できかねる」と言う方がふさわしい、という判断はあっても、その言葉を使いこなすには至っていない状態です。
そこからは、なんとか「一人前」の言葉遣いをしようと背伸びをしている様子が見えてきます。

かねる」を使った文章は、ただ「できない」と断言するのとはニュアンスが異なります。
質問にはお答えできかねます」の場合、それは「回答しない」という拒絶宣言ともとれますが、それだけではありません。
「本当はお答えしたいのだけど、なかなかそうもいかないんですよ、お察しください。」という言い訳の側面も見えます。
「なので、できれば質問しないでくださいね」と釘をさす雰囲気さえ感じられます。
そこにあらわれるのは、なんとか責任回避をしようとする自己保身の姿です。

それが悪いわけではありません。
立派な処世術のひとつとも言えます。
しかし、そういったことがらは、「学校」では教えてくれません。
通常は、自ら気づき、学ぶ以外にありません。

できかねません」という言葉を間違えて使ってしまった人は、そういった処世術がまだ「中途半端」な状態であることを自覚した方が良いでしょう。
一人前になったつもりでいると、とんだ恥をかくことにもなりかねません。

類似の亜種に、「分かりかねません」というものもありました。
一見すると丁寧な言葉遣いのようですが、これでは分かるのか分からないのか、さっぱり分かりませんね。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

できかねない:3,130件
でき兼ねない:5件
出来かねない:1,560件
出来兼ねない:55件
出来かねません:545件
出来兼ねません:14件
わかりかねない:1,410件
わかり兼ねない:2件
分かりかねない:201件
分かり兼ねない:3件
わかりかねません:1,530件
わかり兼ねません:1件
分かりかねません:461件
分かり兼ねません:6件

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