2005.03.05

誤字等No.132

【白爪草】(取違科)

Google検索結果 2005/03/05 白爪草:712件

シロツメクサ」という植物を、ご存知でしょうか。
よく似た仲間に、「アカツメクサ」という種類もあります。

名前は知らなくとも、その形はきっと見たことがあるはずです。
地を這うように伸びた細い茎の先に、小さな円い葉っぱが三枚ついている草です。
夏になると、球状の白い花を咲かせます。

一般的には、もうひとつの名前の方が有名かもしれません。
それは、「クローバー」。
特に「四つ葉のクローバー」は、幸運のシンボルとして知られていますね。

かつて欧州から持ち込まれた「シロツメクサ」は、その後日本各地で野生化しました。
牧草として栽培もされていますが、ちょっとした空き地にも自生しています。
子供の頃、その花を摘んで花冠を作った記憶のある方も多いでしょう。

そんな「シロツメクサ」、漢字で書くとどうなるでしょうか。
白い花弁が爪のような形をしているから、「白爪草」。
そう思い込んでいる人、いませんか?
でも違います。

正解は、「白詰草」。
ツメ」の部分は「」ではなく、「詰める」なんです。
白爪草」は、「詰め」を「」と取り違えた誤字等、と言えます。

シロツメクサ」は、花冠を作る子供たちなど、「情緒あふれる風景」によく似合うことから、「詩」の素材としても好んで使われます。
それが「白爪草」になっていたら…
せっかくの雰囲気が、色あせてしまいそうです。

爪草」の名を持つ植物は、「シロツメクサ」とは別に実在します。
「たかのつめ」とも呼ばれ、鳥の爪のように曲がった細い葉が特徴です。
その姿は、「クローバー」とは似ても似つきません。
紛らわしいことに、この「爪草」もまた、白い小さな花を咲かせます。
白爪草」と表記すると、この「爪草」と間違われかねませんね。

さて、「詰草」の名前は、この草が日本に入ってきたときの時代背景に由来します。
江戸時代、日本はオランダと貿易を行い、ガラス製品などを輸入していました。
壊れやすいガラス製品を納めた箱の中に「緩衝材」として詰められていた草、それが「シロツメクサ」です。
詰めもの」として使われたから「詰め草」、なんともシンプルな命名法です。

ちなみに、その頃の西洋ガラス細工が「ギヤマン」と呼ばれるのには面白い理由があります。
当時、ガラスの加工には「ダイヤモンド」が使われていました。
オランダ語で「ダイヤモンド」を意味する言葉は「diamant」、その発音を日本人は「ギヤマン」と聞き取りました。
さらにその「ギヤマン」が、加工用の道具ではなく、加工された「生成物」の名前として定着してしまったわけです。
このような経緯ですから、ガラスのことを「ギヤマン」と呼ぶのは、おそらく日本人だけでしょうね。

それはさておき。
シロツメクサ」に関しては、もうひとつ広く誤解されていることがあります。
それは主に、幸運の象徴「四つ葉のクローバー」に関係します。

何せ縁起の良いものですから、「四つ葉のクローバー」を図案化したものは、たくさんあります。
各種のシンボルマークやアクセサリーのデザインなど、応用範囲はかなり広いです。
それらの中には時折、葉を「ハート型」にしたものがあります。
四つのハートが、ひとつにつながった形。
幸運と愛情のシンボルを兼ね備えた、最高級の縁起物ですね。

でも、待ってください。
それは本当に「クローバー」ですか?

前述の通り、「クローバー」の葉は、円いんです。
「え? ハート型の三つ葉の草、見たことあるよ」という方、それは「クローバー」ではありません。
三枚の小さな葉が根元でつながっている形、ごくまれに四つ葉が見つかるという特徴。
よく似ていますが、「クローバー」とは違います。

その草の名は、「カタバミ」。
道端にひっそりと、はりつくように生えている様子がよく見られます。
日本各地に分布し、小さな黄色い花をつけます。

シロツメクサ」は「マメ科」、「カタバミ」は「カタバミ科」ですので、両者は「近縁種」ですらありません。
まったくの「別物」です。
四つ葉のクローバー」と思われていたそれは、実は「四つ葉のカタバミ」だったのです。

四つ葉のカタバミ」に、幸運の象徴としての価値があるかどうかは分かりません。
しかし、それを「クローバー」と言ったら、「嘘」になります。
それは、クローバーのふりをした「偽者」です。
「みせかけの幸運」を掲げて、果たして満足できるのでしょうか。

カタバミ」自体は、非常に繁殖力が強いことから武家の家紋にも使われている、由緒ある植物です。
決して、縁起の悪いものではありません。
どうしてもハート型の葉の図案を使いたいなら、ちゃんと「カタバミ」と呼称しましょう。
そうすれば、少なくとも「まがいもの」扱いされることだけは、なくなるはずですから。

ところで近頃では、とあるシロツメクサの「変種」が栽培されているそうです。
それは、葉が黒みを帯びていることから「クロバ(黒葉)ツメクサ」と呼ばれています。
通常のシロツメクサと違い、四つ葉の出現率が非常に高いことが特徴のようで。
「幸運のシンボル」を手軽に栽培できるのであれば、贈り物としても喜ばれそうですね。
もっとも、本来「四つ葉のクローバー」は「珍しいからこそ価値がある」ものだと思っていましたが、あまり関係ないのでしょうか。

この「クロバツメクサ」には、もうひとつ大きな特徴があります。
それは、「もうひとつの名前」の方。
普通の「シロツメクサ」が「クローバー」ならば、「クロバツメクサ」は?
そう、「クロバクローバー」です。
この呼び名の方が流行るんじゃないかと思うのは…私だけ?

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

赤爪草:562件
紫爪草:52件
シロシメクサ:2件
ツロツメクサ:6件

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