2005.02.26

誤字等No.131

【うっとおしい】(平誤科)

Google検索結果 2005/02/26 うっとおしい:39,200件

今回は、「shinriyo」さんからの投稿を元ネタにしています。

うっとうしい」と「うっとおしい」、正しいのはどちらでしょうか。
どちらを使うかは「好みの問題」なのではないかと思えてしまうほど、両方ともよく使われます。

漢字にしてみると、どちらが正しいかが分かります。
この言葉の漢字表記は、「鬱陶しい」。
「陶」は「陶器」や「陶芸」の「陶」です。
「陶器」の読みは「とうき」か「とおき」か、と考えれば分かりますね。
うっとうしい」が正解で、「うっとおしい」が誤字です。

普段「うっとおしい」を使っている人も、「陶器」であれば「とおき」とは読まないのではないでしょうか。
すなわち、「うっとおしい」派の人は「鬱陶しい」という漢字表記を「知らない」ものとみなされます。
知っていて、それでも「うっとおしい」と読んでいるなら、「無頓着」です。
どちらにしても、あまりありがたい評価ではありません。

ところで、「うっとおしい」は、本来「」であったものが「」に変化したと見ることができます。
これはちょうど、「そのとうり」や「めじろうし」と「逆」の変化です。
」と「」の入れ替えは、双方向で起こっていたのですね。

興味深いことに、「そのとうり」と「うっとおしい」の両方を同じページで使っている人も、かなりの数が実在します。
おそらく、根本的に、「正しい表記」という概念に関心のない人なのでしょう。
」と「」の違い自体を、まったく「意識していない」と思われます。
指摘したら、「そんなの、どっちでもいいじゃねーか!」という反論が返ってきそうです。

もっとも、それがすべてではありません。
間違っていることを承知の上で、意図的に「普通の表記をしない」ことをモットーとしているような文章も見られました。
それが「個性」だと思うのであれば、否定はしません。
しかしそのためには、「時と場合」を確実に認識する能力が必須です。
その能力が足りないと、「不真面目人間」というレッテルが貼られ、とてつもない不利益を被る危険があります。
それすらも覚悟の上であれば、もはや何も言えませんが…

そのとおり」にしても「うっとうしい」にしても、発音してしまえば「」と「」の違いはあまりありません。
どちらも「オの段の長音」と似た形になります。
そのとーり」、「うっとーしい」といった感じですね。
これらの表記も数多く見ることができますが、このあたりは明白な「話し言葉表記」とみなし、誤字扱いはしません。
問題は、そこから長音を使わずに表記する形に戻す場合。
」の方に転ぶか、それとも「」の方を使うのか。
これはもう、その言葉を「知っているかどうか」にかかってくる話となります。
言葉を「正確に」覚えるということに対して関心のない人であれば、それこそ「どっちでもいい」という認識になるのでしょう。

それにしても、「うっとおしい」の検索結果は半端な数ではありません。
これほど広く使われている理由とは、何なのでしょうか。

ひとつ考えられるのは、「」の方が「雰囲気が出ている」ことでしょうか。
長音にせず、しっかり「」を意識して「うっとしい!」と発音すると、いかにも鬱陶しげな様子が伝わってくる気がします。

もうひとつ、「連想」から来ているという説も考えられます。
いとおしい (愛おしい)」や「くるおしい (狂おしい)」などに引きずられて「うっとおしい」になってしまった、とするものです。
他にも「くちおしい (口惜しい)」「まちどおしい (待ち遠しい)」などが関係しているかもしれません。
このような言葉を使いこなせる人であれば、「」と「」が「どっちでもいい」状態になることなど、考えづらいところではありますが。

うっとうしい」には、他にも誤記のパターンがあります。
いくつか、代表的なものを見てみましょう。

うっとぅしい」…まさか、「とぅ」の部分を「two」の発音で読んだりはしないですよね?
うっとぉしぃ」…そこまでやるなら、最初の「う」も小さい文字にしてあげてください。
うっといしい」…そこまで発音が変わってしまって、意味が伝わっていますか?
うっとしい」…横着ですね。かなり「短気」なのでしょうか。

あいかわらず、日本語の「揺れ」は相当なものです。
これだけいろいろあってもコミュニケーションが成立するとしたら、本当にたいしたものです。

ひとつ補足しますと、方言として「うっとしい」などの発音が使われる地域もあるようです。
そんな方言のまま表記しているのなら、それは誤字ではありません。
しかしこれもまた、「時と場合」の認識が重要となります。
標準語で書かれた文章に突然方言が混入したら、同郷の人以外には話が伝わらなくなってしまいます。
そこで求められるのは、故郷の言葉と標準語を的確に使い分ける力です。

「正しい言葉遣い」が求められる場面で、微妙な表記を正しく書くことができるかどうか。
それは、その人の日本語に関する「素養」を明確に示す指標になります。
このような細かいことを「鬱陶しい」と思わずに、きっちり身につける、それが「教養」というものではないでしょうか。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

うっとぅしい:576件
うっとぅしぃ:69件
うっとぉしい:4,780件
うっとぉしぃ:1,220件
ぅっとぅしぃ:23件
ぅっとぉしぃ:105件
うっとぉーしい:50件
うっとおおしい:40件
うっとしい:902件
うっとしぃ:323件
うっといしい:349件
うっといしぃ:2件
うっとぃしい:2件
うっつしい:1件

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