2005.11.19

誤字等No.145

【最小公約数】(取違科)

Google検索結果 2005/11/19 最小公約数:567件

今回は、学校で習う「算数用語」に関する誤字です。
だからといって、厳密な「数学的正確さ」は求めません。
「整数」ではなく「自然数」だとか、「整式」も含まれるとかいった学術的なツッコミはご遠慮ください。

さて、まずは基本から。
約数」とは、ある整数を割り切ることのできる整数のこと。
「8」の約数は、「1」「2」「4」「8」の四つです。

公約数」とは、複数の整数に共通となる約数のこと。
「8」と「12」の公約数は、「1」「2」「4」の三つです。

そして、「最大公約数」とは、公約数の中で一番大きいもののこと。
「8」と「12」の最大公約数は、「4」です。

それでは、今回の表題、「最小公約数」とは何でしょうか。
文字通り解釈すれば、「公約数」の中で一番小さいもののことですね。
「8」と「12」の最小公約数は、「1」「2」「4」の中で一番小さいもの、すなわち「1」です。

では、「3」と「7」の最小公約数は?
「1」ですね。
「51246」と「1976842」と「608741053」の最小公約数は?
これも「1」です。
正の整数の世界では「1」は全ての数の約数であり、かつ最小の数ですから、当たり前です。
どんな組み合わせでも、最小公約数は、常に「1」です。
最小公約数」という概念自体、考えるだけ無駄ですね。
無駄であることをわかって書いているなら誤字ではありませんが、真剣に吟味しているなら明らかに取り違えです。

ところで、「最大公約数」という言葉には、「算数用語」以外での使われ方があります。
複数の意見から共通で取り出せる最大の類似点、あるいは対立する陣営で共に妥協可能な落としどころ、といった意味合いです。
政治的な話題などに、よく登場します。

残念ながら、このような「専門用語」を他の分野に応用した場合、「本来の意味」は曖昧となってしまうことが多いものです。
最大公約数」という言葉を使いながら自説を展開する人も、この言葉の意味をどれだけ本気で考えているでしょうか。
ただの「共通点」あるいは「妥協点」といったことだけの意味で使っていないでしょうか。
最小公約数」のような間違いは、言葉を「曖昧」なままの状態で借りてきて使っている実態をあらわにします。

無論、意図的に「最小公約数」という言葉を使っているケースもあります。
ときには、「最大公約数」に達していないことを揶揄する皮肉であったり。
あるいは、共通の「単位」としての「1」を話題とするものであったり。
それらは誤字ではありませんが、誤字と誤解されかねないだけに、あまり上手い表現とは言えませんね。

では、なぜ「最小公約数」という誤字が生まれてくるのかを考えてみましょう。

最大公約数」と似た言葉としては、算数の時間に一緒に習う「最小公倍数」があります。
このふたつが混ざった結果、「最小公約数」となってしまった、と考えるのが最も自然ですね。
「算数用語」としての意味を真剣に考えていないなら、はっきり言って「どちらでもいい」状態にもなり得ます。
算数が得意でない人なら、特にその傾向が強いでしょう。

言葉が混ざった結果であるなら、別の組み合わせで作れる言葉も登場するはずです。
実際、「最大公倍数」もたくさん発見できました。

一度や二度の書き間違いなら単なるミスですが、定常的に間違っているようだと、かなり情けないです。
「自分は算数が苦手」であることを公言しているようなものですから。

もうひとつ考えられる原因は、「最小」という言葉を使いたがる理由がある場合です。
妥協は必要だが、妥協の幅はできるだけ小さくしたい。
共通点は見つけ出したいが、できるだけ簡単な小さいものを探したい。
最も単純で、規模の小さなものを「落としどころ」として選び出したい。
このような意識が働いた結果、「公約数」に「最小」を付けてしまった、という経緯です。
この場合も、「公約数」の意味をよく理解していないのではないかと疑われてしまいますね。
どちらの原因であったとしても、素で間違えた場合、かなり「恥ずかしい」誤字であることは間違いありません。

ここで、上述の「最大公倍数」についても考察してみましょう。
これもまた、誤字であることの多い言葉です。

倍数」とは、ある整数を何倍かした数のこと。
「8」の倍数は、「8」「16」「24」「32」…です。
約数」とは違い、限界はありません。
どこまでも続きます。

公倍数」とは、複数の整数に共通となる倍数のこと。
「8」と「12」の公倍数は、「24」「48」「72」…です。
これも、数に限りはありません。
公倍数の倍数はすべて公倍数ですから、どこまででも増やせます。

そして、「最小公倍数」とは、公倍数の中で一番小さいもののこと。
「8」と「12」の最小公倍数は、「24」です。

では、「最大公倍数」とは。
公倍数はいくらでも大きくすることができますから、「最大」のものは存在しません。
あえて言うなら、「無限大」が答です。
どんな組み合わせでも、「最大公倍数」は、常に「無限大」です。
最大公倍数」という概念も、考えるだけ無駄ですね。

苦手なら、無理して算数用語なんて使わなくていいです。
滔々と演説を述べている最中にこんな間違いが紛れ込んだら、聴衆の反応は嘲笑に変わりかねません。
素直に、自分に扱いきれる範囲の言葉に限定しておいた方が無難です。
さすがに、「算数用語」であることを知らないほど苦手だったとしたら、無理もないことですが。

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

最少公約数:30件
最大公倍数:307件

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