2007.01.02

誤字等No.161

【元旦の夜】(取違科)

Google検索結果 2007/01/02 元旦の夜:38,300件

あけましておめでとうございます。
元旦は過ぎてしまいましたが、2007年最初の誤字等は「正月」関連用語からお届けします。

さて、今回の表題である「元旦の夜」 は、どこが間違っているのでしょうか。

実を言えば、間違っていません。
というわけで、厳密には「誤字」ではありません。

……で終わってしまっては、何のためにこのページを書いているのか分かりませんね。
無論、これを「誤字等」として取り扱うのには「理由」があります。

この言葉は、一般的には「間違い」とされるケースが多いです。
しかもかなり広く使われているため、「指摘」を受けやすい言葉でもあります。
そのため、本当の正誤はともかく、「使用を避けた方が良い言葉」と考えます。
厳密には「誤字」ではないものをあえて「誤字等」としたのは、それが理由です。
少なくとも、「プロの文章家」なら決して使うべきではありません。

元旦」の「」 は、地平線から太陽が昇る様子をあらわした象形文字です。
その意味は、「日の出」「夜明け」「早朝」など。
要するに「朝」です。
すなわち「元旦」は「元日 (1月1日) の」を示す言葉なのです。

では、「元旦の夜」 とはどのような意味になるでしょうか。
「元日の朝の夜」ですね。
意味不明です。

これが、「元旦の夜」 を「間違い」とする人の根拠です。

「1月1日」を示す言葉は、前述の通り「元日」 です。
元旦の夜」 は「元旦」と「元日」 の意味を取り違えた誤字等、というわけです。

元旦」の類義語に「元朝」があります。
元日の夜明け前に初詣に行くことを「元朝参り」などと言ったりもします。

もし「元朝の夜」という表現を使ったら。
それが「間違い」であることは、一目瞭然ですね。
元旦の夜」 が「元朝の夜」の同類だと言われれば、使う気もなくなるでしょう。

元旦」の意味がひとつだけであれば、「元旦の夜」 は間違いと断言できます。
しかし、現実は違います。
辞書には「元旦」の意味として「元日」 とも載っています。
であれば、「元旦」で「1月1日」を示す用法は、間違いではないことになります。
元旦の夜」 も、「1月1日の夜」として解釈できます。

元旦」と「元日」 が同じ意味なのであれば、取り違えても問題ありません。
これが、「元旦の夜」 を「厳密には間違いではない」とする理由です。

そして同時に、それは「元旦の夜」 という表現が使われる理由でもあります。
この言葉を使う人たちは、ほぼ間違いなく「元旦」と「元日」 を区別していません。
区別がつかないのなら、「元旦の夜」 に対して違和感を持つこと自体が不可能です。

」 が「朝」を意味する漢字であることを知っているかどうか。
それが「元旦の夜」 という表現の問題に気づくための唯一の条件です。

元旦」と同じような構成をしている言葉に「月旦」があります。
これは「月の初めの日」「ついたち」を意味する言葉です。
これを引き合いに出して、「元旦」に「元日」 の意味があることの根拠とする説もあります。
が、「」 自体に「ついたち」の意味があるわけではありませんので、少々苦しいですね。

繰り返しますが、「元旦の夜」 は「間違い」ではありません。
しかし、「間違い」とされることの多い言葉です。

この種の表現を何も知らずに使うことと、間違いとされる根拠を理解した上で許容すること。
両者の間には、はるかな開きがあります。

どうしても「元旦」にする必要があるのでなければ、素直に「元日」 で置き換えることをお勧めします。

ところで。
「大晦日」を英語で「New Year's Eve」と表記するのは、間違っていません。
ですが、近頃はそれを日本語で「元旦イブ」などと表現する人がいたりします。
どんな表現でも使う人の自由ではありますが、その言語感覚にはついていけません。
まして、「元旦イヴ」などとカッコつけられたりした日には……

[実例]

日本人とは、かくも「別の言葉との取り違え」に弱いのでしょうか。
このような「取り違え」が原因と思われる誤字等の品種を、「取違科(とりいか)」と命名しました。

[亜種]

元旦の昼:525件
元旦の夕方:707件
元旦の深夜:679件
元旦の三が日:4件

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