医 学 生 日 記  

'03年度 五年生/二学期

BSL:病理学  ベットサイドじゃないけど・・
BSL:総合診療部  診療所実習 
BSL:皮膚科  大病院の皮膚科って?
BSL:麻酔蘇生科  オペ室に密着
BSL:救命救急医学  ICUと救急車と救急外来
お茶祭休み  今年は仕事がない・・
BSL:耳鼻科  診察大目、手術ハード
BSL:外科−消化器外科大腸グループ  大腸関係の手術と検査など
BSL:外科−小児外科  毛色の違う外科
BSL:外科−外病院  よその病院にも行きます
 
BSL:病理学 
2学期からいよいよ臨床実習、BSL(Bed Side Learning)がはじまった。4〜5人の班で2週間(たまに1週間)ずつ、 殆どの科を回って病棟、外来、手術室などの実際の現場で実習をする。楽なところもあるが、きついところは かなり大変らしいし、色々コツもあるだろうとみんなで情報を交換しやすいよう専用掲示板も作った。

で、私達の班の記念すべきスタートは病理学教室。唯一、診察も入院患者もいないところだ。全然ベット サイドじゃない・・(^^;)病理学自体は好きなので面白かったが、標本洗いを手伝ったり、顕微鏡見たり、 症例レポート作ったりというのは、1学期までと同じ。

初めて見たのは術中迅速診断、ゲフリール。ドイツ語のGefrierschnitt(凍結切片)から来ている言葉らしいが その名の通り、手術で切り取った組織をすばやく固めてスライスして染め、顕微鏡でチェックしてそれが何か 診断し、20分ほどで手術室に連絡するというお仕事。その結果によって、手術の進行が変わってくる。

血の滴る生標本は感染の危険もあって結構危険。それを手際よく処理していく技師さんたち。何人もの病理医が 顕微鏡で見、資料を見、ディスカッションして手術室に連絡する、というのはなかなかスピード感と臨場感が あってかっこよかった。その他検査で取ったものを詳しく調べたり、亡くなった患者さんの標本の検討など、 一般の人の目には触れない仕事が色々ある。病理の先生は医者とはいっても割と学者さん風な雰囲気なのだが、 科学で直接的に医学を支えてるって感じのところがとても楽しそうだ。

病理の部屋には技師以外のお姉さんもずいぶんいるなぁと思ったら、医学生物系の研究のために色々な学部か ら来た大学院生の人達がいるのだった。ちょうど新人さんが来る時期だったのか私たちと一緒にあちこちで 説明を受けていた。ある日、マクロ解剖といってまだ臓器としての形をとどめた状態での(心臓とか肺とか) 検討を見学していた。たとえば腸とか肺を切り開いたものを並べて、ここに癌があるとか、胸膜が厚くなって くっついているとか、肉眼で分かるものを記録していく作業だ。(あとで更にそれを細かくして顕微鏡で見る) それをテーブルを囲んでふむふむと見ていたら、いきなり後ろでバタン!という音が。振り向くと倒れた お姉さんが担ぎ出されているではないか。「???数十分立ってただけなのに、なに??」と驚いた私達 だが、あとで他学部から来た人はまだ慣れないからと聞いて初めて、それが慣れていないと具合悪くなるような 光景であったことに思い至ったのだった・・。

総合診療部

最近になって始まった診療所の実習。大学病院というのは最先端で、専門化の進んだところだが、 普通の人がまずかかるのは近所の診療所。在宅で闘病、療養生活を送ったり、最後を迎えたりといった形の 医療を支える在宅医療も地域の医療機関の仕事だが、そういう生活と密着した医療は大学では学べない。 今まではそういう方面に興味のある学生が自主的に夏休みなどを利用して見学や実習に行く、というのが 多かった様だが、全員に実習として取り入れられる様になるのはとてもいい傾向だと思う。

行き先は普通の1人診療所から、複数のスタッフの地域診療所、大きな病院と連携した診療所などで 日帰りできる場所が一人一人に割り当てられた。私が行ったのは埼玉のちょっと遠目のベッドタウンと いったところにある診療所。先生1人に看護婦さん、受付さんといった普段行きなれた形の医院。 大学で10年ぐらい消化器内科をしたあと開業した先生とのことで、何となく落ち着いた中高年の先生を連想して いたのだが、行ってみたら結構若かったのでびっくりし(私より2、3年年上だっただけ)、向こうは向こうで 名前を見て男の学生が来ると思い込んでいたらしく、互いに「あれ??」という初顔合わせだった。(^_^;) おまけに早稲田から医科歯科というダブル同窓生だった。

日常で普通の人が医者に行く時は「熱があるから」とか、「気持ち悪い」と言う理由でとりあえず行くので あって、この臓器の専門になどと指定しないのが普通だ。だから内科診療所は、風邪を初めて とした感染症、心臓などの循環器、腎臓などの泌尿器、もちろん腹痛、下痢、便秘など消化器、とても多い あらゆる小児科、血液疾患、膠原病、アレルギー、神経、心療内科、脳梗塞の後のフォローや パーキンソン病などの脳神経、とすべての患者さんが続々とやってきて、とても勉強になった。 おまけに「内科」としてあっても、膝が痛いとか腰が痛いとか部活で切ったとか言う外科領域も多く、 体調がなんか悪いと言うことで妊娠検査をしたりとなんでもありだった。

子供を連れて来るお母さんは大変だ。大体兄弟全部連れて一人を見せていたりするが、翌日には元気 だったほうのお姉ちゃんに感染って患者が変わってたり、家族中に移ってお父さんお母さん子供達を いっぺんに診察したりとすっっっっごく見慣れた光景・・(^_^;)うちはここ数年で子供たちも大きく なってそういう事もなくなって、最近は楽だなぁとしみじみ思った

大学の内科だと幼児を診ることはないわけだから開業していきなりじゃ怖いだろうなぁと思ったが、 色々な病院をローテーションしたりアルバイト診療の中でいろんな患者さんを診る機会があるので こつこつそれで勉強するとの事。そして開業前にはレントゲン技師の勉強もして自分で撮影。

今見ると、大学ではその1つかしないのに(もちろん患者は全身診るので他の領域も見たり判断したり はするが)全部やるなんて大変と思うが、素人の頃としては医者は当然皆そうだと思っているし、専門外 だから分からないなんてセリフは(良く聞くけど)全然納得いかないものだと言うことを改めて思い出した。

他の学生も、在宅医療に力を入れているところでは往診に回ったり、都内とはいえ「村長の一番の仕事は、 医者をつれてくること」という僻地に行って別世界をみたりと色々なものを見てきたそうで、 みんなの話を聞くのが面白かった。

BSL:皮膚科

皮膚科の実習、というと結構聞かれる。「皮膚科の入院って、なにするの??」湿疹やおできや水虫等で近所の 皮膚科へ行って塗り薬や飲み薬をもらった経験のある人は多いと思うが、大学病院に入院というと未知の世界。 どんな病気の人が入院しているかというと・・まず、小さな病院ではあまり扱わない皮膚癌。手術や化学療法 を組み合わせて治療する。他にも皮膚だけが病気という場合もあるが、皮膚が病気、というよりは全身の病気で、 主に皮膚それが表れているものも実はすごく多い。ウイルスや結核等の感染のこともあるし膠原病とか免疫異常、 薬のアレルギーなど。腎臓や肝臓の機能も同時に見なければいけなかったり、他の科と連携も多い。 そういったものは生命の危険のあるものも多くて非常に重い患者さんも結構いるのだった。

そして最近多いのが重症のアトピー。さしあたって命の危険はなくても、痒くて昼も夜も眠れない、社会生活も できない、見かけも大変という上に、だいたい民間治療、ステロイド治療を転々として苦労しているので 精神的にも疲れきっていることも多い。たくさんの検査で原因を探し、対処療法をしながらその後のコントロール を根気よく探っていくのでややこしくて違う大変さがある。

病棟の実習では担当の患者さんを診察したり、病歴取ったりガーゼ変えたりの処置を手伝ったり、手術に入ったり 簡単な縫合はさせてもらったりといったことをする。最後に担当患者さんのカルテをまとめたもの(サマリーという) を作り、課題についてのレポートを作ったりして教授諮問を受ける。

外来では診察の見学もするが予診とりもする。「今日はどうなさいましたか?」に始まり、いつからどんな 症状があるかとか、今までにもあったか、とか、何か誘引になる状況や食べ物や化粧品などがあったかとか、 体質や遺伝を考えるには家族暦、今までした病気などの既往歴、今飲んでいる薬、などを聞いてカルテに書き、 診察の先生につなぐ。聞くべき項目は山ほどあるが全員にすべての項目を聞いていたら日が暮れる。聞きながら、 それだったら何を疑うか、だったら何をもっと聞くべきか、をうまく取捨選択する必要があり、すべての科で 頭と経験がいるところだ。(問診の技量で診断の正確さもかかる時間も、必要な検査の絞込みも桁違いに変わる。) たいてい引き継いだ先生の問診を聞いていると(あっ、そうかそれも聞くべきだった〜・・)となる。

外来には普通の蕁麻疹や虫刺されや皮膚炎の人も結構多い。デジカメとプリンターの普及で、昨日こんなだったんですと きれいな写真を持参してくる人が多いのがおもしろかった。確かに皮膚科では時にすごく参考になる。そのまま その写真がカルテに貼られることもある。また他の病院から紹介されてきた患者さんは癌や教科書でしか見ないかと 思ったような珍しい病気の人もたくさんいてその辺は大学病院独特なところだった。

私は初めてあたった患者さんがたまたま、珍しくてちょっと厄介な疾患だった。当人もそんな気はなく気軽に 話を聞いて見せてもらっているとだんだん(あれ?これは・・ひょっとして??まさかね・・でも??)。 ニコニコしつつも、内心かなり困惑しながら先生に引き継いだ。結局心配の通りの診断が付いて、それからは 学生はタッチしなかったが、しばらくずっと、あの人どうしてるかなぁ・・とずっしりといろんなものが 心にのしかかった。今も。初めての患者さんは忘れないとは言うけれど。

BSL:麻酔蘇生科

ひたすら毎日手術室。私達の班はまだ外科系を1つも回っていなかったのだが、導入としてちょうど良かった。 まず、毎朝ある麻酔科カンファレンスに出席。たくさんいる麻酔医と、その日の各科の執刀医等が出席している。 大学病院では毎日何十件もの手術があるが、その日にある手術について、誰が何の病気で何の手術をして、 リスクなど問題点はどういう点で、どういう方法で麻酔をするか、といった内容を確認する。大勢の人の 後ろのほうに座ってのんびり聞いていると、突然「この場合○○を使うと考えられるリスクは何ですか? 学生さん。」などと聞かれたりすることがあるので油断できない。

手術の見学自体は自由で、15室ある手術室の予定表を見て興味を持ったところに入って見学したり質問したり 色々教えてもらったり、という感じだった。緊急手術でもない限り、入ってくるところまでは皆意識があるので 、全くの正気から麻酔の準備をし、麻酔がかかり、全身麻酔なら気管に太いチュ−ブを入れて呼吸を確保し という過程を繰り返し見ることが出来た。患者の年齢や病気、手術の方法、持病などに合わせて色々な方法が あるのがよく分かった。

余裕があれば簡単なことをさせてもらったりはしたが、なにぶんにも研修医がものすごく必死に教えて もらってる最中なので、あまり邪魔は出来ない雰囲気だった。麻酔がかかった後に服を脱がせたり 呼吸のチューブの他、点滴や血圧計や心電図や色々なものを付け、導尿の管や温度計を入れたりする。 さらに手術に合わせた姿勢をとらせるために台の一部を外したりつけたりするが、この辺は執刀する科の 主に若い先生がやっている。その後切るところの周りをよく消毒し、それからやっと手術用の穴の開いた 青いシーツをかけるので、学生達もいつしか老若男女の意識不明の全裸体にすっかり慣れてしまうのだった・・。

手術中は暇かというとそうではなくて、分単位で血圧や心拍などを表に記録し、尿量をチェックし、 輸液や麻酔の量を調節し続ける。麻酔というのは最初に必要時間分をボンと投与してしまうのではなくて、 すぐにさめるものを調節しながらかけ続ける。そうしないとかけ具合が調節できなくて危険だからだ。 更に、血圧が下がったり心臓の動きが悪くなったりしたら適切な薬を投与する。手術中、状態が悪くなったり すると外科医達は手を止めて麻酔科医とモニターのほうを注目、落ち着かせるのを待つということが 良くある。全身麻酔なら、手術が無事終わると麻酔をとめ、筋弛緩剤の拮抗薬(解毒剤のようなもの)をいれ、 呼吸ができるようになったら管を抜き、うまく息が出来るか、意識が戻るかを確認してめでたく退室。 病棟から迎えに来た看護士に引き渡すまでずっとそばについて様子を見たり苦しがったら痰を取ったり しているのだが、おそらく患者さんの記憶には殆どない。(^_^;)縁の下の力持ち的な働きともいえる。

クルズス、といってちょっとした講習みたいな時間も設けられていてそれも面白かった。また、外来 見学もあった。麻酔の外来というのは、ペイン・クリニック。神経の特定のポイントに注射して麻酔 を効かせ、痛みをとるという分野だ。根本的な治療ではないが、治療の方法も原因も分からない場合は 生活の質の向上には大きく貢献するし、時に痛みによる緊張で悪循環に陥っている場合はその連鎖を とめることで治癒へ向かうこともある。首の奥の神経節を狙ってぶっす〜と長い針を刺したりしている ところをみると、なるほど専門家じゃないと怖い・・と思った。

BSL:救命救急医学

ICU(intensive care unit:集中治療室)というのは厳重に観察、治療が必要な患者さんが機械に 取り囲まれている部屋。個室ではなくて仕切りのある広い部屋に機械とベットが並んでいる。(処置 の時などは仕切りをして見えなくする)基本的に起き上がれるような状態の人はいないので 他の病室とは雰囲気が違う。座ってとなりの人と話したり、 お茶を飲んだり食事をしたり、テレビ見たりトイレに行ったりといった生活の気配は全くなくて、 モニターの音と、呼吸器のシューシューいう音と医者や看護師の話し声だけがする。

そこで先生について各患者さんについての説明や処置を聞いたり、カルテを見たりして自主的に勉強する。 一人担当患者をきめてレポートをまとめるが、特に何か出来るわけでもないし親睦を深めることも 出来ないので、勝手に勉強させてもらっている形だが毎日通っていればやはり気になってとりあえず 用がなくても毎日顔を見てカルテを見て一喜一憂してみたりする。ICUはとても重症の人が多いので、 力尽きて亡くなる人もいる一方、短期間で劇的に回復して出て行く人も多く悲喜こもごもが濃密だった。

人工呼吸器の体験もした。意識の無い人は喉から太い管を気管に入れて空気を送り込むが、体験では 口にその管をくわえて機械に合わせて息をしてみる。・・・難しい。普段は意識しないけど、吸ったり 吐いたりの調節なんて外圧に合せるものではない。圧力かけて送ってくる空気を吸おうとしても なかなか抵抗なく吸えないし、こっちが吐こうとしているのに向こうが送り出してくるとぶつかって むせる。(これをファイティングという)だから、機械も空気を単純に出し入れするわけではなくて、 呼吸が全く出来ない人から少しは出来る人、時々出来ない人に合わせて色々なモードがあり、なるべく 負担をかけないように呼吸を補助するようになっている。改良の過程で苦しい思いをした人がさぞかし いたんだろうなぁと思った。

ところで、機械はたとえマネキンのような人型でも生き物に見えないのが普通だが、ただの金属の箱の 呼吸器はやけに生き物っぽい気配がある。スー、ハー、という規則的な柔らかな呼吸音はどうしても 理屈を飛び越えてわたしの感覚に「生き物」という認識を呼び起こしてしまうらしく、ん?誰?という 感じでそっちを見てしまうことがよくあった。

その他、1日救急車同乗実習がある。消防署に出かけて1日救急車に乗せてもらう。大事故や重病に 遭遇することもなかったので、割と心穏やかに東大病院から他の病院に状態の安定した患者さんを 移送するというお仕事を見せてもらいつつ、社会科見学のように興味津々、救急車の観察をして終わった。  → えにっ記(に描く予定)

最後に救急外来の見学。救急指定病院という病院にも色々あって、初期(軽症)、2次(重症)、 3次(重篤)と分けてあり、センターで患者を振り分けるようになっている。この大学は2次救急指定な上に、 3次救急で有名な伝統のある日大がすぐ近所にあるため、割とのんびりしていてテレビの「救急24時」 といったドキュメンタリーのような雰囲気はない。が、私達(2人で見学していた)が行った時、既に 3人の患者さんが来ていて、もうすぐもう1人くる、という状態で、こんなこと珍しいわ〜!人手が 足りない〜!と看護師さんは慌てていたので、レントゲン取りに行ったりといった車椅子押し仕事を せっせとしたら喜ばれた。そう、学生が役立つのは肉体労働ぐらい。あとは手術室などで「1、2の3、 それ!」と患者さんを台に移す時とか・・。

でも、ものすごく急を要するという患者さん達ではなかったので、心電図とったり(これぐらいは出来る・・) 転んで切った傷を先生が縫ったりしているのを見ていたのだが、その後到着した人はどうやら俗に言う 脳卒中の発作のようでにわかに慌しい雰囲気に。(こういう場合、学生に判断させたり、教えるために 時間とって処置が遅れたりするようなことは絶対にないのでご安心下さい。) とりあえず神経内科の先生が降りて来るまでのつなぎで所見(体の様子などの診察)を取ってみてと いうことで麻痺の様子や瞳孔等をチェックしていたのだが、明らかに脳の片側に広範囲に何かが起こって いることを表す兆候がある上に、あれよあれよという間に症状が進んでいってドギマギした。 すぐに来た専門の先生はとてもすばやく所見を取って、CTの部屋に運びながらてきぱきと要点を教えて くれたので、さすが〜!と感心した。でも状況はとてもシビアだったので、足取りも重くトボトボ帰った。

お茶祭休み 

10月末、大学祭のため一週間のお休み。専門に上がってから3年生で解剖展、4年生で寄生虫展とお祭りに参加 していたが、特に部活やサークルをやっていない私は今年は仕事がなくてちょっと寂しい。見に行こうかなと 思いつつも結局行かず仕舞いで、家での活動に専念した。ミシンがけしたり、大英博物館展へ行ったり、 風邪で休んでいたつるとインド料理ランチを食べに行ったり、子供達の誕生プレゼントを選んだり。

BSL:耳鼻科 

耳鼻科の実習は学生の参加が多く、手を動かすのが好きな人には楽しい。まず鼻、耳、喉の器具を使った 診察やめまい(ここには珍しいめまいの専門外来がある)の診断に使う眼振(黒目のゆれ)の検査の おさらいをしてから、外来に待機して実際に患者さんの診察につき、所見をカルテに記載して (耳鼻科なので絵や図をいろいろ描く)サインをする。もちろん予備診察のようなもので、そのあと 患者さんはちゃんと医者に見てもらえるし、いやな場合は断ることが出来る。 はじめはかなりおっかなびっくりな学生も延々とやっているとかなり慣れてくる。が、慣れた後でも カルテの記載は先生にバシバシ治される(^_^;)

また、聴力検査の暗い消音壁の部屋に集まって機械やデータの説明を聞いたり、補聴器を体験してみたり 内部のウワサ話などを聞くレクチャータイムなどもあった。補聴器をつけると部屋の向こうの端の人のひそひそ 話がでっかく聞こえてびっくり!

また手術見学もたくさんある。町の耳鼻科のイメージだと耳鼻科の手術ってちょこちょこっと終わりそうだが 大学のは全然毛色が違う。顔や喉に食い込む癌を扱うからだ。その辺りは食べるし話すし、特に息は絶対 しないとまずい。悪い所を切り取るだけでなく、その機能を残すための修復作業(再建)が入るので、大体手術 予定表の中で極端に時間が長いのは耳鼻科。舌と、喉頭(声を出す辺り)の癌やその辺のリンパ節や時に食道を 切除し、おなかの皮や筋肉、小腸の一部を持ってきて再建する、となると、耳鼻科、消化器外科、形成外科合同で 10時間、20時間のオペになる。先生方も別に学生に全部つき合わせる気はないのだが、中には限界に挑戦して 丸一日を越えるオペを全部見学した女子学生もいた(^_^;)。また鼻の周りの複雑な洞窟(副鼻腔)の手術は 最新のナビシステムを使ってたり、耳の数ミリの音を伝える小さな骨を、人工の小さな機械に取り替えたりと ミクロにもメカにもなかなか面白いのだった。

病棟の回診はあの病室をぞろぞろ回るやつではなく診察器具のある部屋に患者さんがやってくる形式。見た目 にはなんだか分からない割と元気な患者さんもいるが、顔面や顎、喉に大きな手術をした患者さんは非常に 後も大変で、痛々しかった。

最終日近く、外来に行くといつにも増して患者さんが殺到しており、先生達は学生どころじゃなくて「その辺で 適当にやってて」と放置されたので奥の部屋にあった耳鼻咽喉科アトラス(図・写真集)を見ていた。アメリカの 本で写真が実に豊富で感心しつつ読み進め、首の病変のページを繰っているとはじめの方は首の様々な病変だった のだが途中から首のキズの章になり、”刺創”(首にナイフ刺さってる)、銃創(傷は丸くて小さいが。CTで見ると 見事に斜めに貫通している)なんてのもあり、アメリカの本ってすごい(^_^;)と思った・・。

はじめ、それって耳鼻咽喉科?そりゃ喉だけど〜( ̄。 ̄;)と思ったが、耳鼻咽喉科は頭頸部外科という領域も 兼ねていることが多い。頭頸部外科が独立しているところもあるが。でも実際、首にナイフ刺さった人が来たら 処置するのは誰なんだろう・・

BSL:外科−消化器外科大腸グループ

外科の実習は4週間あり、2週間ずつどこかのグループに属して回る。外科の特徴として朝が早い。7:30にカンファ (治療や経過、手術などについての会議)が始まり、9時前に手術が始まり、遅い時は夜まで手術。もっとも 手術のない日もあり、検査を見たりして早いときはあっさり終わったりするが(学会で上の先生がいなくて 手術もなかった日など、今日はこれで終わりーと朝の9時に終わったこともあった)。

やはり学生達を何よりも悩ませるのがほぼ毎朝早いこと。私は全然平気だったが、これはむしろ若くて 不規則に遊びたい人のほうが遥かにきついと思う。 私も10代から20代前半なんて、低血圧もあって本当に朝はつらかったものだ。手術の見学も何時間にもわたると つらいと言われるがこれもかなり好き好きで、面白ければさほど疲れない。もしくはかなり足が痛くても そんなに気にならない。実際、学生よりハードにずっと立ちっぱなしで執刀してる先生方のベテラン以上は 30代〜50代なわけだし。

まず最初の2週間は私は大腸グループ。大腸癌の手術が多かったがこれは割とさっさと終わるし、手洗いして 入った私も含めて3人とかでこじんまりシンプルに手術を見学できたりして面白くて楽なほうだった。 ただし、肝臓のほうのグループの人はかなり大変だったらしい。まずそもそも肝臓が血管の塊 のようなものなので癌を切り取るにも膨大な血管の止血しながらちまちまやらなければいけないため時間が かかる。なおかつ学生にうっかり触らせられるところじゃないのでひたすらあまり術野は見えないところで 同じようなモニター画面を見たりしながら5時間とか8時間とか立ってるだけだったりすることも多く、 このグループの学生はやつれていることが多かった。中にはとても楽しかったと喜んでた人もいるので 好き好きもあるだろうが。ロッカールームで毎日のように今どこ〜?と言った会話がされるが 「肝・胆・膵グループ・・」と言えばだいたい「あら〜・・」と返してもらえるのだった。

ところで学生が手術に入って何をするのかと言うと、鉤引きといって切り口や腸を引っ掛けてよけておく 曲がった細い板を持ってる係とか、縫った糸を結ぶとか、たまに1、2針縫うとか、ホッチキスのような ものでおなかぱちんとするとか。後は術野(切って開けてある所)を見て、これなんだと思う?この血管は? ここが腫瘍だね、と言った説明を聞いたりする。手洗いして入っていなくても高い踏み台を持ってうろうろして後から 覗き込む事は出来るし、真上にカメラがあってビデオにとってるのでそのモニターも見える。 研修医が大腸癌切除をやっているときもあったので結構やらせてもらえるんだなぁと思ったがその辺は 大学によって違うらしい。

また、開腹手術ではなく腹腔鏡で小さなキズからマジックハンドを突っ込んで腸を切り取ってつなげ、 小さな切り口から切り取ったものを引きずり出すと言ったものも見学したが、外から見たらつまらないかと 言うとそうでもなく、中の様子が内視鏡で非常に拡大されてモニターで見えるため、そこにいる全員に 術野が良く見えてかえって勉強にはよかったりするのだった。昔のドラマに良くあった、手術室の天井の ほうの窓からガラス越しに見学するなんてのじゃ実際殆どな〜んにも見えないと思うが、あれは偉い人の 視察用だったんだろうか。ちなみに15室ある手術室のどれにもそういう昔風な見学窓はない。

病棟ではガーゼ交換についていったり、腿の動脈からの採血をさせてもらったり。また注腸検査と言って お尻からバリウムを入れて癌などがないか見る検査を何度も見学。お尻から出たチューブの先の細長い丸い 袋を押しながら造影剤とガスを入れていってぐるぐる台を動かしたりするのを見ていたためか、 家で無くなりかけてたケチャップを逆さにして押し出していたらこの検査を思い出した・・。

私がついていたのは研修医の優しいお兄さん先生と、その指導医であるまだ若い元気な女医さんだったが、 この女医さんがとっても美人で、回診の時患者さんのおじさんが喜んで言うことには「いや〜美人だね〜 ハーフなの?違うの?あ、あれだよほら!ヒデとロザンナのロザンナそっくりだよ〜!!」
研修医の先生「・・(^_^;)?」
指導医先生「・・あ〜最近だんなさん亡くなった人ですよね?いえ現役では見た事ないですけど・・(^_^;)」
私1人が内心密かに(あ〜わかるわかる〜確かに〜!!)とウケていたのだった。

BSL:外科−小児外科

後半の外科は小児外科。小児は大人にはない注意が色々いるし、疾患の内容も違うし、外科医だから 出来るという代物ではない。特に今はややこしいものは専門医を集めたセンターでする傾向になり つつあるし、小児を切れる人材がいないと科自体が作れない。手術室でも麻酔科の先生は小児が 来るとベテラン先生が必ずつく。実は都内のでっかい大学病院であるここも最近まで一切小児外科は 扱っておらず、簡単なヘルニア手術だろうが、全身麻酔で鎖骨下動脈にカテーテルを入れる処置で あろうが、全て外の病院に送っていたらしい。

で、ようやく専門の先生がやってきて徐々に症例が増えつつあるところなのだが、その先生1人しか やってないのでスタッフはその先生と小児科のローテーションで外科も勉強しているという研修医の お姉さん。そこについたため、ずーっと付きっ切りで超ベテラン先生に教えてもらいまくるという 大変楽しい実習だった。またその先生が忙しいのにやたら教育熱心で朝から質問攻めだわ、手術も たくさん見学するし、外来診察もついたし、論文は読まされるし(当然英語)、提出レポートも英語で、 添削しまくってくれるという濃厚な指導であったのでサボりたい人向けではないが実に楽しかった。 それもがんがん動いていたけど夕方はかっきり5時に帰す方針であったので勉強量がやたら多かった 割には拘束時間は少なくメリハリがあった。

アメリカの病院にいた時の話を良くしてもらって面白かったのだが、あれぐらいは欲しいという 先生の理想とする医学生像としてアメリカの医療ドラマのERに出てくるカーター君の話が出たので、 いやぁあのレベルに追いつくのはなかなか〜と受けたら、追いつくとか言うレベルじゃないだろうが と一蹴されました(^_^;)

外来、病棟、手術室と、なんか久しぶり〜って感じで赤ちゃんを見物。むずかる時にはちょっとした 経験上の小技を使ってあやしたりするとそれが結構効いて応用できるもんだなぁと思ったり。 赤ちゃんじゃないけれどお話はまだ出来ないぐらいの子はもう状況が良く分かるので、病棟でも 白い服の人が近づくだけで本当に悲しそうに泣くので担当だったけど今ひとつお友達になれなかった 子もいた。その子はまたバイバイがすごく上手。つらい処置が終わるともう終わりだよ、バイバイ って言われるので、バイバイすればいやなことが終わっていやな人がどっかへいくと思ってるので、 そりゃもう必死の形相でバイバイしてくれる。小さい子はバイバイするの好きなもんだけど、 こんな顔のバイバイもあるんだと初めて知った。

一度しゃがんで低くなって接近して、手帳に赤いペンで書いた泣いたウサギさんの顔を「ほら○ちゃんと おんなじ、うさぎさんも泣いてる」と見せたら目を丸くして見入ってくれたので、「ほらわらったよー」 とページをめくり、次のページに書いておいた笑ったウサギの顔を見せたら気に入ってくれたようで 何度もパタパタした。最後まで笑ってはくれなかったけど。

外科に限らず小児はお母さんとの信頼関係が非常に大事で、まして体にメスを入れるとなると 大変だと思うのだが病棟で見ても外来で見てもその辺も実にプロフェッショナルだった。お母さん達 信頼しきってるというか目がハートに近かったし。

BSL:外科−外病院

3日間、二子玉川にある関連病院で消化器外科の見学。遠かったので5:30起き。同じ沿線の 同級生と、ニコタマはじめて来た〜駅前きれい〜住宅展示場にあるような立派なうちがいっぱい 〜等と見物しながら通勤。

そこにいる先生はみんな大学からの派遣なので大学の先生方も、様子も良く知っている。 外の病院では大学では診られないような日常的な疾患を見たり、その病院の得意とする分野 を見たり(得意分野というのは、大きい病院の方が優れているとは限らない)市中病院の外来や 病棟の様子を勉強するというのが趣旨(らしい)。

さっそくなんかおなか痛いけどまさか・・とやってきた虫垂炎の患者さんを見せてもらえたりで 実用的。また、この病院で得意とするヘルニアの検査や、手術なども色々見せてもらえた。 手洗いして手術に入ったり、どこかちょっと持ったり縫ったり結んだりとチョコチョコやらせて もらえるのは同じ。

そして驚いたのが、大学と同じ大腸癌の切除の手術のスケジュールのフットワークのよさ。 患者さんに検査結果を伝え、手術の同意を取ると、じゃあ来週でどうですかって、えっ?来週? 大学だと空きが1ヶ月とか2ヶ月とか先になることも多い。大腸癌はそんなに急激に進むもの ではないとはいえ、転移してしまえば命に関わる病気なんだから待っているのも さぞかし気持ちが悪いだろう。先生方いわく、大学じゃなきゃ出来ないような手術じゃなければ 近所でさっさと切っちゃえばいいんだよ。でも大きい病院のほうがいいに決まってるって堅く 信じてる人多いからよけい混むんだよねぇ。とのこと。


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