医 学 生 日 記  

'99年度 一年生/二学期
うずら−2 詳細編

行動の観察をしたあと毎日大事に世話をして一週間、次の実験は性ホルモンが行動に与える影響の測定。 つまり、去勢すると攻撃行動が無くなるか?という事で、去勢手術をする。ただ、それだけだと去勢の せいか、手術されて具合が悪くて大人しいのか分からないので、お腹を開けるけど精巣取らない、精巣は 取るけど性ホルモンの出るチューブを埋め込むというパターンも入れての3種4羽を班ごとに手術。 初めに先生が幼稚園の先生のような口調で「は〜い、みんな、ごはんはちゃんと食べてきましたか〜?」 ????なにかと思えば、前日の他のクラスの実習では貧血を起こして倒れて運ばれた人がいたそうだ。

去勢手術、これが無麻酔。(薬を使うのが難しいのと、影響が出ると結果に響くから)固定したウズラの 脇腹を切り開き、肋骨を一本とって、精巣を二つほじり出し(チューブを埋め)縫い合わせる、これが無麻酔。 ひ〜。当然ながら皆初心者であり、手元がぶるぶるだったり、大出血させたり、出す途中で精巣を破って しまって何度も掻き出す羽目になったりと大変。途中で死なせてしまうことも結構あり、廊下で涙する女学生も。 無事終わったウズラもじっとうずくまり羽を逆立てて明らかに不快そう。危なそうなのは集めて暖かい ランプの下に入れる。

私は1羽、去勢の手術をした。切るのが怖いという事はないが、どうせなら早く終わった方が楽だろうと 急いでやったら、少し精巣を破いてしまって、残らないように掻き出す羽目に。筋肉を縫い合わせてから、 それとくっつかないよう皮膚を縫い合わせる。これだけは大変きれいで好評。なにせ、年中保育園で引き 破ってくるTシャツやズボンを、ごろごろしないように、力の掛かる方向や布目を考えて、きれいに 縫い合わせるという作業をしているので、縫うのは慣れている!

更に一週間、雄らしさであるお尻の赤い盛り上がりのサイズを測りながら傷をいやしてもらう。3日後の 月曜に、どの傷もきれいに乾き、肉見えてますけど・・と言うようなひどい縫い方をした個体の傷も、 きれいに固まっているのでその回復力に驚き!!全く消毒も薬も使わないのに鳥は膿んだりはしないそう。 人間はすぐ傷が膿んでぼろぼろになるのに、不思議!不思議!免疫の強さの違いの由縁を是非知りたい。

さて一週間後、雄らしい攻撃宣言の鳴き声や、けんかっぷりを測る。去勢したのは大変おしとやかに なっている。それをせっせと電卓の鬼になって統計処理する。(パソコンを持ち込んでやっても良い) うちの班はチューブ入りが死んでしまったので、そこは他の班に見せてもらった。

その後、ちゃんと精巣が残さず取れているかを解剖して確認するが、今回はこれがみんなの気を重くして いたといえる。一班2羽だけだが、まず首をはさみで切り落として殺さなければならないからだ。ニワトリの 屠殺もそうだが、首を切ってもしばらく暴れる。切り落とされた首は口をぱくぱくし目をしばたたき、手の中 の暖かい体は鮮血を吹き出しながら、1分位はバタバタもがく(のでしっかり押さえておかないといけない) この辺は一切ノータッチで遠巻きにする人多数。私は押さえる役、切る役共いろんな事を考えながらやった。

課題を終えてから、他にもよく見たかったので、内蔵、頭、骨、眼とはじから細かく見ていった。 実習はいつも二人の先生が教室を回っているので何かと捕まえて質問するのによい。腸が三つ又になってる! (盲腸。鳥は大きいのが一対ある)お尻に謎の臓器が?(特定できず。脂腺?)。頭の骨がスカスカ せんべい状!(飛ぶために色々軽量化が図られている)etc.etc・・・。しまいには先生自作の骨格標本まで 見せてもらった。

終わり間近、教卓の上の大きな透明ビニールの中には大量のウズラの死体がぎっちり詰め込まれて、どんと 置かれている。凄惨な光景ともいえるが、これがフレンチの厨房ならばこういうものであると日常にとけ込む んだろうなぁなどと思う。

その週末、家族とケンタッキーのフライドチキンを食べていて,これはガラに使うお腹の辺りの骨だな・・ と衣などを除きつつ見ていたら,くぼみから、ごろん!と見慣れた(のに近い)精巣を丸々一個掘り出して しまい、あ、雄だ・・。

翌週手術が失敗した個体の様子を見たかったので申し出ると、他科の実験用にとってあるウズラを少し 使ってもいいよとのことで、去勢したが雄らしさの残ったものをテストの合間に一人で追加の解剖をした。 初めて入った奧にある飼育室は、何やら大きなハンドルや錠の付いたすごーい分厚い気密扉で、内側に 閉じ込められないよう注意,緊急に中から開ける方法など書いてあるのでちょっと怖かった。 先生は時々様子を見に来て、色々教えてくれたのでたくさん質問が出来て良かった。

1羽は片方だけ取ったところで、多分出血多量で中断したものらしかったが、傷がひどい。縫い方が 深すぎて皮と肉が癒着していて、胆嚢もつぶれてあたりが黄緑になり、中もそこら中くっついている。 これで元気に餌食べて飛び回ってるのがすごい。ただ、取り残した生殖器が代償肥大と言って短期間に 大きく育って替わりを果たしている様子を見たかったのでこの個体は不適当。

もう1羽探すとやけに太っている。と思ったら傷を中心にぱんぱんに膨れている。鳥は膿まないって言うのに? と皮を開けるとそこにも膜が。筋肉の表面の膜にガスが入ってぱんぱんに浮き上がり、モモの方まで風船の ようになっている。??はさみを入れるとぷしゅっとしぼみ、中を見ると・・・うわ〜。筋肉の縫合が ちゃんと閉じていなかったのでそこからかなりの腸が外にはみ出ていたのだ。腿の筋肉も赤く血管が浮いて 炎症を起こしたようになっている。これでよく飛び回っていたなぁ・・ 人間なら高熱が出て、膿んで、痛くて動けないぞ・・。

精巣の方は片方が半分ぐらい残っていた、が、もともとあった部分と再生したところの区別が付かず、切り口の 膜もよく分からずじまいだった。ので、結局代償肥大を観察するという目的は果たせなかったが、手術の跡、 下手な処置の後の癒着とはどういうものか、とか、ささいなことで死んでしまう か弱い鳥が、別の一面では どんなに丈夫なものかというのがよく分かった。

自分が手術したのが失敗したかもと思っていたが、よく探したら(脚に目印を付けていたので分かった) お尻の赤味もきれいにしぼみ、至って元気そうにしていた。ので自分のやった後の経過は気になったが これ以上殺生をするのもと思いやめた。


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