2005.02.06

誤字等No.129

【めじろうし】(平誤科)

Google検索結果 2005/02/06 めじろうし:667件

今回は、「wakwak」さんからの投稿を元ネタにしています。

正直、この情報を頂いたときの感想は「まさか?」でした。
しかし、実際に検索してみれば、おっしゃる通り。
めじろうし」なる奇妙な言葉が、次々と現れます。
漢字表記した「目白うし」や「目白牛」もみつかりました。

さすがに「目白牛」は洒落で書いている人が多いようですが、「めじろうし」や「目白うし」は違います。
この表記で「正しい」と確信しきってしまっていると見られる人たちが、これほどいるとは。

めじろうし」について、特に誤字であることを指摘する文章も見られませんでした。
まさに「隠れた逸品」とでも言えるでしょうか。
こんな素材が埋もれていたなんて、誤字等の世界は奥が深いですね。

この「めじろうし」なる言葉。
使用例を文脈から判断すれば、どう見ても「めじろおし (目白押し)」のことでしょう。
目白押し」は、多くのものが、隙間なく集中している様子をあらわします。
小鳥の「メジロ」が、枝の上に押し合うようにして並んでとまる様子から生まれた言葉です。

この「目白押し」が「めじろうし」に変化する過程を推測するのは、難しくありません。
要するに、「そのとうり」と似たようなものです。

まず、「目白押し」という言葉を「目」からではなく「耳」から覚えた人であることが前提。
誰か他の人が、「目白押し」と発言します。
その発音を、長音化した「めじろーし」と聞き取ったとしましょう。
そのまま「めじろーし」として、この言葉を記憶してしまうこともあり得る話です。
ここまでくれば、「ろーし」が「ろうし」に変化するのは、自然の流れです。
こうして、「めじろうし」という言葉が、その人の中で定着します。

発音が「めじろーし」の状態であれば、「めじろおし」との差はそれほどありません。
イントネーションの違いはあるかもしれませんが、意味が通じる範囲となることも多いでしょう。
であれば、普段の会話で使っても特に違和感もなく、誰からも何も指摘されることはありません。
自らの間違いに全く気付くことなく「めじろうし」を使い続けている人がいる理由は、ここにありそうです。

ただし、これがさらに進み、「」をはっきり意識した発音になると、話は別です。
長音化せずに「めじろうし」と読めば、それは「目白押し」とは「違う言葉」になります。
漢字表記するなら、それこそ「目白牛」が最もふさわしいでしょう。
ここまでくれば、自ら間違いに気付くか、誰かに指摘される可能性が高くなります。
本気で「目白牛」と書いているように見える人もいるようではありますが、そこまで鈍い人はかなり「少数派」ですね。

発音だけを見れば、「めじろおし」から「めじろーし」を経由して「めじろうし」に変化する過程は、それほど不自然なものでもありません。
しかし、一度でも「目白押し」という漢字表記を見たことがあれば。
それを記憶してさえいれば、「押し」が「うし」に変化するなど、そうそうありえないはずです。

めじろうし」を使っている人たちは、その言葉の「意味」はちゃんと理解しているようです。
でなければ、自らの言葉として文章中に登場させることなどできませんね。
彼らは、過去に「目白押し」という表記を見たことさえないのでしょうか。
いえ、それは考えにくい話です。言葉の「意味」を知っているならなおさらです。
なぜ、「めじろうし」として自らが覚えている言葉と、「目白押し」がつながらないのでしょうか。

ここに浮かび上がってくるのは、「話し言葉」と「文字としての表記」を関連付けることをしない人たちの姿です。
ふいんき」など、これまでに登場した誤字等の中にもいくつか、同じような特徴が見られます。
ネット上でそのような人たちが目立つように感じられるのには、理由がありそうです。

ブログなどの流行により、これまで「文章を書く」習慣を持たなかった人たちも、次々と自作の文章を「公開」するようになりました。
しかし「文章」に接してこなかった人たちの多くは、同時に「文章を読む」ことについても、圧倒的に経験が不足しています。
その結果、「ひとりよがり」で「自己流」の文章を書くことになりがちです。
表記違いも勘違いも、それら「自己流」の文章からは、たくさん生まれてきます。

他人の文章を読む機会が多い人であれば、どこかで「正しい表記」に遭遇している確率が高いものです。
そして、「正しい表記」が記憶のどこかにひっかかっていれば、「めじろうし」のように奇抜な誤記をしてしまうことも少なくなります。

文章を書き、公開すること自体は、悪いことではありません。
たとえそれが間違いだらけであっても、「会話」だけの世界に生きていたときとは違った経験を積むことができるでしょう。
でも、せっかくなら「書きっぱなし」ではなく、「他人の文章を読む」習慣も身に付けたいものです。
他人の文章をちゃんと「表記」を気にしながら読んでいれば、「めじろうし」のような誤記はきっと淘汰されていくはずです。

ただし、同じような言葉遣いの「仲間」内だけで閉じていては、そこに「気付き」はありません。
仲間の書いた文章にも、「めじろうし」が登場していたとしたら。
めじろうし」で正しいという思いが、かえって強化されてしまいます。

はたして、今後、「めじろうし」のような誤記は淘汰されていくのか。
それとも、再生産されて増殖するのか。
それは、これからの人々が「文章」とどのように関わっていくかによって、変わってきます。

[実例]

日本人とは、かくも「平仮名の間違い」に弱いのでしょうか。
このような「平仮名の間違い」が原因と思われる誤字等の品種を、「平誤科(ひらごか)」と命名しました。

[亜種]

目白うし:98件
目白牛:101件
めじろ牛:3件
めじろーし:16件
めじろし:94件

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