BMW E30 M3 ECU(DME) room
                                                                                                 更新日:令和5年1月12日

依 頼

以下は、E30M3の整備会社から動作不良ECUの修理依頼があり、実施した調査/対策の内容である。

【始動不良調査】

エンジンが始動できないトラブルとして、ECUの点火回路不良と水温センサ不良(配線の断線も含む)がある。

1.点火系回路不良

<エンジンシミュレータで机上確認>

当該ECUをエンジンシミュレータと接続して、動作状態をエンジンシミュレータのLEDで確認した。

始動しないECUの場合は、回転数を変化させても、点火コイルの動作状態を示すLEDが点灯しない。

<対策>

当該ECUの点火回路の不具合箇所を修理した。

<対策後の確認>

  • 当該ECUをエンジンシミュレータと接続して動作させ、点火コイルの動作LEDが点灯することを確認した。
  • 実車で正常に始動できることを確認した。
 

2.水温センサ不良(断線も含む)

<ECUのシリアル入力回路変更>

不具合発生時のエンジンの状態を確認する為、ECUのシリアル受信回路燃料種類設定入力回路を変更し、ROM上のプログラムを改造して、モニタできるようにした。(調査完了時に現状復帰した)

<所有車で確認>

エンジンが始動できないトラブルとして水温センサが不良(断線も含む)の場合があり、その時に当該ECUが取り込んでいるセンサ値や燃料噴射時間などをパソコンでモニタできるようにした。



水温センサのコネクタを取り外し、断線状態でエンジンを始動できるか確認した。

  • 始動時の水温などの動作環境によって異なると思われるが、殆どの場合、回転が続かずエンストする。
  • 回転が続いても、回転数は低くバラツク不安定な状態で加速できない

水温センサ脱着による、モニタ表示の違いを下図に示す。

 
  • 水温センサのコネクタを取り外すと、ECUは極端な低温状態と判断し燃料噴射時間が長くなり過ぎる為、ガスが濃く回転が続かない。
  • 直後にこのコネクタを取り付け再始動すると、シリンダ内に生ガスが残っている為、最初は回転が不安定だが直ぐ安定回転となる。

 

【アイドリング不良調査】

1.ハンチングするECU

<エンジンシミュレータで確認>

当該ECUをエンジンシミュレータと接続して動作させた時、水温を低温から高温に変化させても、アイドルコントロールバルブのLED表示が変化しなかった。

<ECUの端子の波形を確認>

<実車で回転確認>

実車に当該ECUを接続しアイドリングすると、回転が粗くハンチングしているようだった。

<実車でアイドルコントロールバルブの動作確認>

アイドルコントロールバルブ用コネクタを外しても、動作に変化は無かった。

<アイドリング中の空燃比を空燃比計で取得したもの>

空燃比データが、波打っていることが分かる。



<基板調査>

当該ECUのプリント基板を確認すると駆動トランジスタの取り付けピンが溶けていた。

そこで、プリント基板のハンダ面を確認するとパターンが焼損していた。

<参考回路図>

<対策>

当該ECUの、アイドルコントロールバルブを駆動しているトランジスタ2個を交換し、焼損したパターンをジャンパ線で補修した。

なお、当該ECUが搭載されていたM3のICVにダメージがある可能性がある。(車側の配線は太いので問題はないと思われる)

エンジンシミュレータで効果確認>

当該ECUをエンジンシミュレータと接続して動作させた場合、水温を低温から高温に変化させると、アイドルコントロールバルブのLED表示も濃淡が正常に変化した。

<ECUの端子の波形で効果確認>

エンジンシミュレータにECUを接続した場合の波形で、アイドルコントロールバルブの代わりにLEDが負荷となっているので実車の場合と異なるが、振幅が大きい。

<実車で効果確認>

実車に当該ECUを接続しアイドリングすると、回転が滑らかになっていた。

<アイドリング中の空燃比を空燃比計で取得したもの>

空燃比データが、平らであることが分かる。




2.回転が高すぎるECU

エンジンシミュレータで確認>

当該ECUをエンジンシミュレータと接続して動作させた場合、水温を低温から高温に変化させると、アイドルコントロールバルブのLED表示も濃淡が変化した。(負荷が軽い為、問題なかった模様)

<実車で確認>

実車に当該ECUを接続し走行した時、アイドリング状態になっても回転が高すぎる。

速度0kmのところを見ると、AirFlow値が30%程度と高く、回転数も1480rpmになっている。

<対策>

当該ECUの、アイドルコントロールバルブを駆動している、トランジスタを交換した。

<実車で効果確認>

実車に対策後のECUを接続し走行した時、アイドリング状態になると回転が低くなっている。

速度0kmのところを見ると、AirFlow値が25%以下となり、回転数も880rpmになっている。


3.空燃比が高すぎるECU

暖機運転を行うと、A/F値が少しずつ高くなり約7分過ぎても正常値にならないので、ECUに問題がないか確認した。

<実車で確認>

実車でアイドリング状態の空燃比を、空燃比計(LM2)で確認した。


  • 始動後空燃比(A/F)が少しずつ高く(薄く)なり、走行を開始すると正常値(14.7前後)に戻った。
  • 走行するまでは空ぶかししても変化しなかった。
  • 始動後7分17秒を越えても正常値に戻らなかった。

エンジンシミュレータで確認>

当該ECUをエンジンシミュレータと接続してO2センサの値を変化させ、ECUのCPUピンの波形を確認すると正常に変化した。(当初は、ECUの波形整形回路に問題があり、CPUピンのO2センサ信号が濃い状態になったままと考えた)

  • エンジンシミュレータのO2センサのデューティを変化させると、ECUのCPUピン波形も正常に変化する。
  • 従って、ECUのO2波形整形回路に問題はない。

モニタ回路を追加した当該ECUと手持ちのECUをエンジンシミュレータに接続して、ECUコンバータを介してM3Analyzerで表示結果を比較した。

  • モニタする為には、ECUコンバータと通信できるよう、当該ECUのシリアル入力回路及びPIN28入力回路を改修する必要がある。
  • 当該ECUと手持ちのECUの表示値に大きな差はない。
  • 手持ちECUの燃料噴射時間が長くなっているのは、ECUを交換後電源ONしたことにより暖機動作となるため。

<実車で始動時のA/F値確認>

始動直後は目標空燃比(14.7)より大きく外れていても、一定の時間が経過するとA/Fの自動制御が始まり、14.7前後に治まる。(この時間は、始動時の動作環境(エンジン温度など)でことなる模様である)

当該ECUは問題ないので、何もしない。

1.当該ECUを実車に接続し暖機運転を実施

・当初はA/Fが高い(薄い)が、2分25秒後には目標値(14.7)前後に治まった。

・当初はA/Fが高い(薄い)が、2分16秒後には目標値(14.7)前後に治まった。

2.所有ECUを実車に接続し暖機運転を実施

・当初はA/Fが高い(薄い)が、2分26秒後には目標値(14.7)前後に治まった。

・当初はA/Fが高い(薄い)が、46秒後には目標値(14.7)前後に治まった。

<過去の取得データを確認>

始動時にA/Fが低い例(エンジン温度は低い状態からスタート)

始動時にA/Fが高い例(エンジン温度は高い状態からスタート)

 

<アイドル時の空燃比調整>

O2センサが有効になるまでの、アイドリング時空燃比が14.7から大きく外れる場合は、エアーフローメータのアイドル・アジャスト・スクリューを、回すことにより調整できる。 (蓋を外すと、六角スクリューが見える)