旅日記


 日出づる処の天子黄砂舞ふ

 鉄剣が語る大王斯鬼宮

 神ぞ知る磐井の墓か月かなし

 龍野には小さき城あり赤とんぼ

 おだまき流す白糸の滝

 赤壁之賦に松江の鱸あり

 知らざぁいって聞かせやしょう

 雲折々人を休る月見かな

 水戸黄門漫遊せず

 古里や臍の緒に泣く年の暮

 吹く風を勿来関と思へども

 一家に遊女も寝たり萩と月

 荒海や佐渡に横たふ天の川

 泉石の町に篆刻美術館

 知恵伊豆はいづこ武蔵の平林寺

 秋の日の暮れ残してや光堂

 五月雨を集めて早し最上川

 このわたをうるかと宗祇戻し橋

 時は今天が下知る五月かな

 影か柳か勘太郎さんか

 御命講や油のやうな酒五升

 今来たこの道帰りゃんせ

 君去らず袖しが浦に立浪の

 道灌や智恵伊豆がゐて時の鐘

 義仲の寝覚の山か月悲し

 かけはしや命をからむつたかづら

 唐崎の松は花よりおぼろにて

 腕と度胸じゃ負けないが

 利根の川風袂に入れて月に棹さす高瀬舟

 鞭声粛々夜過河

 清水港の名物は

 道の辺の木槿は馬に食はれけり

 鴫立沢の秋の夕暮

 風流の初めや奥の田植え唄

 名栗ぞ春の錦なりける

 長岡や無法の誉花楽居士

 業平も三河へ来ればかきつばた

 命なりけり小夜の中山

 河津では梅より早き桜かな

 夏の月御油より出て赤坂や

 伊豆の山々月淡く

 北向きに観音おはす時雨かな

 大浴場の湯気に咲く花

 今までは暗き故郷の山桜

 川中のわき出る湯にて尻を焼き

 これがまあつひの栖か雪五尺

 中込の学校に咲く藤の花